薔薇のエッセイ27、高原のガーデン
高原の風景について書きながら、幕末来日した英国の若き外交官アーネスト・サトウや女流旅行家イザベラ・バードが、海上の船から初めて見た日本の風景の印象を想い出しました。
彼らがそれぞれ中国から船で渡って来て、富士山が聳える相模湾をから開港したばかりの寒村横浜沖の初めて見る日本の風景に接し、いずれも美しい風景に感嘆したことは、彼らの著作で述べています。彼らは多分松林や陽を浴びて葉が光る照葉樹林の風景と海の青さの対比に心奪われたのでしょう。
緯度の高い英国では海岸は崖と草とのミックスで、濃密な緑の照葉樹林に覆われた日本の美しい風景に目を見張ったのかも知れません。当時の風景の美しさがどのようなものであっか、長崎の九十九島に見ることができます。
彼らが感銘受けた濃密な緑の照葉樹林の風景は、私たちが日ごろ余りにも見慣れた変わり映えのしない風景です。私たちはガーデニングで古来の和の庭でなく洋の庭を作ろうとする際、その基本イメージは、下草や樹々が繁茂することのないエキゾチックな高原の風景を求めていること考えると、人間とはないものねだりの動物だと感じてしまいます。
古来神社仏閣の庭は、季節の変化より永遠の生命力を表す照葉樹林と松を基本に作庭が行われ、寺院では近年になって季節の彩を表現するのに広葉樹が添えられたような気がします。神社では永遠の生命と神聖さを表す杉木立の参道、永遠の命を表す椿などの照葉樹が植えられてきました。下草は苔や笹、そして砂利などで排除され、庭の清掃は僧や神官の修行の場でもありました。
広葉樹は新緑や紅葉など季節を表現するには必要でしたが、それよりも夏季の高温多湿の気候の中でも巨大にならず扱いやすさも植栽の条件だったと想います。
個人の家の庭木も扱いやすさが条件でしたが、関東平野の農家の季節風を避ける屋敷林は敷地の裏に針葉樹にプラスして広葉樹を植えて里山と同じ機能を持たせたのだと考えます。
人は自分の身の回りにないようなエキゾチックな光景を求めます。アーネスト・サトウやイザベラ・バードは、緯度の高い高原の植生や気候の地から来日しましたが、彼らは私たちが見慣れ過ぎている下草が密集し鬱蒼とした照葉樹林に目を奪われ、逆に私たちは下草や樹々が鬱蒼として繁茂しない高原の風景を求めてしまうのです。
蓼科高原バラクラ・イングリッシュガーデン
高原のガーデンは標高が高いため、下草が繁茂せず、しかも周囲のほどよく茂った林が借景として使えます。
芝刈りの頻度や花壇の縁の下草狩り頻度も、都市のガーデンに比べると遥かに負担なく維持できるでしょう。反面標高が高かったり北海道のような寒冷地では植物の冬越しが大変だろうと想います。
蓼科高原は親湯に蓼科温泉郷があるだけで、昔から何もなかったところです。しかし蓼科高原は八ヶ岳南面に広がる高原で、八ヶ岳の登山口だけでなく我が国初の山岳道路であるビーナスラインで霧ヶ峰と結ばれ好立地です。そのため個人の高原別荘地や企業の保養所が続々と建てられました。
特に画期的だったのはそれまで北八ヶ岳の稜線上の秘境だった坪庭へピタラスロープウエイが建設され、稜線上から長距離のスキーコースが開発されました。私も40代の時何回かスキーを楽しみました。
その後蓼科高原にバラクライングリッシュガーデンが開園され、何もなかった蓼科にも観光名所ができました。バラクラには2回ほど訪れた事があります。
バラクライングリッシュガーデンは蓼科高原の森を借景として作られたガーデンで、緯度の高い英国の気候に似た蓼科高原は、美しいイングリッシュガーデンをつくるにふさわしい所です。
バラクライングリッシュガーデンそのものは見た目よりは決して広くはなく、周囲の針葉樹の森を借景をうまみに使いながら広いガーデンをイメージしています。ガーデンの植物はランブラーローズやオールドローズ、イングリッシュローズなどシュラブローズと宿根草主体のガーデンをつくりました。また建物など園内の構築物や彫像など全て英国製のため、英国のガーデンにいるような錯覚を得ます。
この画像は30年前のもので今は違っているかも知れません
バラクライングリッシュガーデンが開園してからしばらくたって行きました。蓼科高原の高原の植生ととても良く似合っていました。
やはり洋風の庭は、下草が繁茂するような環境でなく、玲瓏な気候の方が美しくまとまる印象を受けました。
バラクライングリッシュガーデンは夏期は緯度の高い英国と同じ気候ですが、英国の周りの海流が暖かいメキシコ湾流のため樺太と同じ緯度ですが、冬は蓼科高原と比べ物にならないくらい暖かいです。
蓼科高原の麓の茅野の街は気温が低くなるため寒天の産地でもあり、その上に位置する蓼科高原は本州山岳きっての寒冷地です。蓼科高原は上越のスキー場と異なって、暑い雪に覆われることなく真冬の気温が低く地面の中も凍りつく寒冷地のため、ランブラーローズは耐えますが、他の薔薇は越冬できるか心配でした。
いずれにしても下草が繁茂しない日本離れしたガーデンでした。
帯広,十勝千年の森
トムラウシから下山し、登山口まで使用したレンタカーも借りているし、1日予備日もあったので、帯広散策を行いました。熊牧場を楽しみ帯広市内の六花亭で甘味を楽しみ、昼は郊外に出て新得蕎麦を味わいました。さらに2つの代表的なガーデンを訪れました。
十勝千年の森は、十勝毎日新聞社が関連会社として北海道の森と自然の重要性を啓蒙するために、日高山脈の麓の原野を切り開いて作ったガーデンです。
英国のガーデンデザイン家のダン・・ビアソン氏が設計し、千年の森を構成するアースガーデンとメドウガーデンが、英国のガーデンデザイナー協会で大賞を受賞しました。日高山脈を背景にした広大な地は、植物だけでなく農も視野に入れた、人と自然との接点を目指した美しいガーデンです。
十勝の森の楽しみ方は、人それぞれで、日高の山を眺めながら広大な芝の丘を歩いて英気を養ったり、メドウガーデンで英国の宿根草を楽しんだり、カフェで食事をとったり、牧場で羊に餌をやったり、さては広大な草原で自走カーを楽しんだりします。
このガーデンが維持できるのは、北海道の寒冷地のため雑草が生えにくい環境にあるためで、本州ではこういったガーデンは不可能です。反面秋から冬、早春の間はどうするんだろうと心配してしまいます。
十勝千年の森公園は、日高山脈の山を背景とした麓に展開するガーデンで、通常のガーデンと異なって広大な自然と一体となったガーデンです。
北海道の原野の一部を切り取ってガーデンにしていますが、日高を望む広大な丘は樹を伐採して全て芝に、草原は宿根草ガーデンに、人手を入れて改造した人工ガーデンです。
ラムズイヤーの群落です。愛犬を飼っていたころ、このラムズイヤー(子羊の耳)をコンテナに植えて、愛犬の耳のような柔らかな感触を楽しんでいました。
背の高いセファラリア・ギガンティアが優雅に茂っています。黄色い下草のキク科のザグレブは、あまり流通していません。
アトロサンギネアの見事な群落です。タデ科の宿根草で、我が国ではあまり流通していません。
2人の従業員の方が、このメドウガーデンの手入れをしていました。話を伺うと3人でこのガーデンを管理しているそうです。現在の宿根草は冬でも宿根するそうです。
左側に花が終えた人気のグラス・カールフォースターが手入れを終えています。
ガーデナーの方に一番気になっていた土壌づくりと施肥について、お尋ねしたら詳しく教えていただきました。納得です。
立派なレストランも併設しています。
帯広、真鍋庭園
帯広郊外の真鍋庭園はコニファー(針葉樹)主体の庭園として日本唯一です。
山や森の針葉樹を鑑賞用に改良したのがコニファーといいます。
我が国において、洋風住宅の植栽やガーデニングやコンテナの中心樹として、 コニファーが普及し始めたのは、20数年前で一時ブームになりましたが、近年の住宅の植栽が、四季変化のある落葉樹に変わってきたため、四季の変化のないコニファーは下火になっています。
しかし広いガーデンづくりのためにはコニファーは欠かせず、ドワーフコニファー(背が高くならない)などは植栽で人気があります。
真鍋庭園は、明治29年香川県から開拓のため帯広に移ってきた真鍋氏の5代目が運営するガーデンです。昭和40年代からコニファーを輸入して見本庭園づくりを行ってきた実績は、昨日今日新たに作られたガーデンと趣が異なります。
今回真鍋庭園を見て洋風ガーデンにも、年季がとても大事な要素であることが、はっきり解りました。真鍋庭園に拍手を贈ります。
ドワーフコニファー、我が国で新築住宅でコニファーが注目されてから20数年しかたっていません。今ブームは去りましたが、この地にこんな種類のコニファーがあったとは、まさに驚きです。
変わった色のアスチルベが満開です。アスチルベは大好きですが、我が家で咲くのは5月のほんの一瞬です。夏の北海道の気候は、英国と同じように宿根草の花を長続きさせます。
この画像を最後にしてデジカメの電池がなくなってしまいました。ここから森の中の水辺の風景など魅力的なポイントがたくさんありました。
園内を一周が終わり疲れました。こんなコニファーのガーデンを見たのは初めてで、恐らくここだけで、これからも我が国では出来ないでしょう。
那須高原のローズガーデン
那須の友人宅に行き、那須連峰の登山の翌朝、必ず寄るレストランがペニーレインです。パンが美味しいので開店の8時前から列を作っています。
友人の那須の別荘は那須塩原にあり、標高500mなので真冬でも土壌が凍結せず、薔薇も痛みません。那須高原でも標高の高い別荘地では、皆さん薔薇の冬越しに苦労しています。
那須には2軒の本格的なガーデンセンターがあり薔薇の品ぞろえも本格的です。薔薇にとって環境が良いので薔薇栽培を行う人が増えているようです。
友人宅のローズガーデンづくりのDIY
那須の家を手に入れてから20年、友人は月の大半をここで過ごしています。
突然薔薇栽培に目覚めた友人は、今までの植生を活かしながらローズガーデンを作ろうと想い私に声をかけてきました。
薔薇は空間を彩る品種や仕立てにした方が、華やかになります。友人はハイブリット・ティの薔薇を好みますが、ハイブリット・ティを並べても薔薇畑になるだけで、空間を埋めるローズガーデンにならないので、空間を薔薇で埋めるゲートアーチ、フェンンス、アーチ兼用の小パーゴラを薦め、手始めに入り口のゲートアーチの制作に取り掛かりました。
設計と2×4材の材料割り出しを行い、柱建ての基礎、金具、釘、塗料を1発で、店のレンタルトラックを借りて、那須のスーパービバホームから購入しました。2×4材は全て組み立て前にカットし塗装してから組み立てに入りました。柱は4×4の方が良いのですが、丸鋸では1発で切れないので2×4材の2枚合わせで柱をつくりました。
一度2×4材で構築物をつくると後はバリエーションで作ることができます。
その後友人は菜園の仕切りを兼ねてフェンスを建てました。これは製品のフェンス用のアンカーと柱の組み合わせです。フェンスを構成する支柱は市販の薔薇仕立て支柱を使用しています。
薔薇のコーナーに誘導する入り口アーチと背後に空間を薔薇で埋める小パーゴラは友人が自ら設計し1人で構築しました。
空間を埋める薔薇は歴史的なランブラーローズや定評のあるオールド系クライマーやオールドーズやシュラブローズを配置しました。
今までのノウハウをつくして友人が1人で、通りに面したパーゴラに仕立てたヒマラヤンムスクがパーゴラを覆うと見事な空間を作るでしょう。
友人の隣のガーデン
友人の近所のお宅のガーデンです。奥さんが薔薇や草花が大好きでどんどん薔薇が増えて行きます。庭は下草が生えないように砂利で全面覆っています。
那須のお宅は敷地が広いので宿根草もボーダー花壇に植えたようにゆったりと栽培できます。
入り口にゲートのパーゴラを新設しました。これは業者に依頼したものです。
別なお宅の庭
友人宅の近所の薔薇仲間です。このお宅の庭は薔薇、草花、野菜と見事に競演している理想の庭です。
DIYを多用しているためオリジナリティの要素が高く、庭に深みを与えています。
季節を表すコキアを多用し芝庭、薔薇、草花、野菜のコンビネーションは見事です。
更に近所の別なお宅の庭
美しい芝庭のガーデンです。
西欧製のガゼボのキットをご主人が組み立てました。美しい芝庭とカゼボは都市の庭では不可能な夢の空間を作っています。
美しい芝庭と手の込んだアプローチ。フェンス際には手入れの良いハイブリット・ティが咲いています。この空間の余裕が、都会の庭では不可能な見事な景観をつくっています。