25薔薇友訪問記11,Sさんの庭


今年のSさんの庭は一段とバージョンアップを遂げて一層円熟してきましたように想います。
庭の細部まで計算されていて、なおざりにされている部分がなく、自然の植物をまとめ上げた庭としては完璧な印象で、薔薇の一番良い季節にクレマチスや薔薇以外の草花や下草を完璧な形でまとめ上げた空間は、音楽で言えばモーツアルトの時代でなく多彩な楽器が加わり表現方法が複雑になった後期ロマン派のシンフォニーを聴いているようです。

10年少し前、私が仕事をしていたガーデンセンターの薔薇教室で出会ったSさんご夫妻が短期間にここまで完璧な薔薇庭を作られるとは思いもしませんでした。
ご夫妻はいつも一緒に来られて私と大学が同窓だと知りましたが、その理知的な雰囲気とお話では、ご夫妻とも理工学部のコンピューター技術者と想っていましたが、私と同じがさつな商学部と伺い驚きました。しかし商学部には財務会計分野もあり緻密な学生も多かったような記憶もありました。

ご夫妻の薔薇を初め植物に対する研究熱心さは下を巻くほどで、薔薇の選択は当然古今東西の分野に及ぶし、薔薇栽培や仕立て方は他人の方法でなくオリジナルティのレベルに達し、薔薇以外の植物のクレマチス、アジサイ、宿根草、下草の概念は短期間のうちにマスターしコレクションを行っています。

オレンジの薔薇は御主人の故郷、岩手の育種家の作品、イーハトーブの花火です。フェンス花壇のピンクの薔薇はデュセス・ダングレームです。

ゲートを入ると直ぐに中央のガゼボが眼に入ります。右に地植えのイングリッシュローズ、左にデルバールが並んでいます。

薔薇に包まれた玄関です。
左のカーポートの建物の壁面いっぱいにラ・レーヌ・ヴィクトリア、ピエール・ドゥ・ロンサール、マダム・ピエール・オジェのディープカップの物凄い花の競演が見られますが、強い朝日を浴びてハレーションを起こしてしまっているため画像は掲載しません。

ガゼボの周りはムンステッド・ウッドなど私の知っている薔薇の他イーハトーブの香り、イーハ・トーブの朝など私の知らない優しい薔薇が集っています。

っさんの庭の薔薇は地植え、鉢植えがミックスしそれぞれ密集しているために一目で区別がつきません。大半がラフな樹形のシュラブローズなのに乱れておらず、鉢植えの仕立て技術はとても高度でです。

カラーのまとまりが特に見事です。花色を計画的に選ばないとこうは行きません。この光景は見事です。

主役を演じるローズ・ポンパドールと脇役のペリエールの使い方、緑の効果的な使い方とアクセントとしてのクレマチスなど素晴らしい演出です。

庭にいると全く気が付かない立ち木の存在。薔薇をバックに美しい緑を作ります。ガーデンの奥に進むに連れて薔薇の華やかなどちらかと言えば人工的な彩は、自然の緑に変わります。

かって都市の中の茶庭では、茶室に向かう飛び石の一歩が1里を表しています。飛び石を10個越えれば10里の深山を辿ることになり、ようやくたどり着いた庵の手前の沢の水のつくばいで口をそそぎ、小さな躙り口から庵に入り茶を楽しんだと言われています。深山渓谷の中の茶室は見立ての世界です。

茶庭の思想は深山に見立てた美しい石や下草を大事にします。赤さびた鞍馬石や苔むしたつくばいなどが珍重されるのもより自然な山中への憧れがあるからでしょうか。

原種が33種しかない英国では美しい下草はぜいたくなものだったと想います。擬宝珠や斑入りの草やアスチルベの元となった山野草の升麻など、彼らの憧れの対象でした。
Sさんの庭は足元を眺めることにも忙しいのです。

ここからバックヤードに入ります。ここのスペースで次の花を準備しています。またこのスペースは作業の最中の寛ぎのスペースの役割を果たしています。

たくさんのアジサイが出番を待っています。
バックヤードはきちんと片付けられていてとてもバックヤードらしくありません。

カーポートの階上のベランダに登ります。ここだけで23種のブランド薔薇が咲き誇っています。

2階のリビングの前がこのべランダです。リビングにいるとついベランダに出てしまうようです。

階上のリビングから庭を見下ろします。贅沢な光景です。