梅雨明け前の緑深き見沼田んぼ

今年は梅雨が早く開けるかと想っていたら、7月になって梅雨が戻りしかも台風まで来ました。
おかげでこのまま梅雨明けしたらどうなるのかなと猛暑の続いた日々は回避されました。こんな天候の基、今年の見沼田んぼの7月は樹々の緑が深まり、気のせいか例年と様相が異なるような美しい光景を形作っているような感じがしています。

近年、以前に増して緑が好きになっています。薔薇もどちらかというと花も素晴らしいですが樹としての緑をいっそう好むようになりました。
この季節リビングから見る庭も、柔らかな風にそよぐ薔薇の美しい緑の光景を楽しんでいます。

樹々の美しさは偉大です。美しい日本庭園や洋風のガーデンそして公園でもそれらの景観を作るのは、年季の入った常緑樹の美しさで、落葉樹は常緑樹があっての美しさと感じる様になりました。そして今年の春から常緑樹でも葉の入れ替えがあり新緑の時期があることを知りました。
山の緑の美しさを奏でるのは落葉樹です。特に落葉樹の新緑や紅葉黄葉は見事ですが、それだけでは樹々の織りなす自然の重厚感は感じられず、やはり常緑樹がミックスすることで自然の美しい風景が形成されるのでしょう。

薔薇庭を始めた昔の頃、それまであまり庭に関心を払っていなかったためか、日本の住宅の庭についてもいろいろ見聞した時期がありました。当時は従来の常緑樹主体の庭から花木やコニファーが主体の庭に変わりつつあることで、その時ふと感じたのは我が国の庭師たちはは、ピンポイントで秋の紅葉の美しさを狙って作庭したのではと想いました。秋のかえでが美しいからと言って紅葉する樹だけ集めても美しい庭はできません。美しい紅葉は常緑の緑を背景にその鮮やかさを演出します。自然の風景もそうです。常緑樹が基本となっているから紅葉も春の花木も映えるのです。日本の庭師たちはそのことをよく知っていたような気がします。

近年では観光客を呼ぶため美しい紅葉の名所つくりが盛んで、鮮やかな紅葉を足して植え込んでいる寺院などが多いようです。

改めて樹々に眼を向けてみると、樹々は極めて多彩です。
花木は花の印象が強いため樹の名は憶えますが、常緑樹はネームプレートが無いと樹種が解らないものが大半です。落葉樹でもケヤキやブナは解りますが、突然出会った樹を前にして、80年も生きているのに樹種の特定は中々できません。

これは当たり前の話で、クラシック音楽を聴いて何の曲か分かることや高山植物と出会ってその名前を言えるためには、それらに興味を持ち永年接する機会があったため、覚えたのです。しかし樹々については何も覚えようとして来ませんでした。

今年の春、見沼田んぼの全周34㎞を3日間かけて歩いた中で、特に桜回廊を構成する20㎞はその風景の美しさを味わいながら丹念に辿りました。

用水脇の空間は以前近所の人たちが菜園を行っていましたが、今は撤去され、跡地にはミントが自然に広がっています。

見沼田んぼの20㎞の桜回廊の最も美しい箇所は、用水を挟んで対岸の桜同士が交差する回廊と、用水の斜面林の常緑樹や落葉樹の高木が桜と交差する回廊が一番美しい事が分かりました。特に用水の斜面林の高木の新緑の美しさは目を見張る光景であり、第1級の景観を形成していることが分かりました。

しかし斜面林の高木を撮影して下の木の本で検索すれば分かるだろうと軽く考えていましたが、撮影画像と木の本のイラストや葉を調べても樹種の特定が出来ず改めて木の特定はとても難しいことに気が付きました。

ということで昔購入した木の本に加えて、書店で実物を確認しながら3つの図鑑を購入しました。これですべて解決かというと、樹種の特定はそんな甘くはありませんでした。
こういうことは未だ頭がクリヤーで覚えても簡単に忘れない時期に興味を持てば良く既に遅しの感はありましたが、まだ少し知識欲は少し残っていて、更に幸いなことにウォーキングで木に触れる機会が多いため、少し樹種を知っておくのも悪い事では無いなという気がしてきました。

最初に調べたのは用水の斜面林にあるミズキの高木でした。高さは20mぐらいになります。ミズキ科ミズキ属 落葉広葉高木
斜面林に高々と聳えている樹々が続いています。しかし簡単と想われたそれらの樹々の樹種の特定は中々難しいです。第一に葉で樹種を特定することになりますが、図鑑ではこれがはなはだ困難です。

辻井達一著の日本の樹木によれば、ミズキは正月の祝箸の材料で、江戸時代奥多摩の農家から江戸に供給されたと言われています。
もう一つは繭玉の木に使われたと書かれています。繭玉は五穀豊穣を祈るために餅や団子を小枝に刺して飾ったとあります。
繭玉で想い出すのは冬の何もない千葉の印旛沼と茶店に飾ってあった繭玉の風景です。子供の頃毎年冬に父に連れられて行ったバスでの成田講の子供心の想い出がありました。
浦和からバスで千住のお化け煙突を見て成田山に着き、講のお詣りを待つ間、子供が喜ばない鯉の刺身の弁当を仕方なく食べ、帰りに必ず印旛沼に寄りました。沼の端には茶店が2、3軒あり、成田山で飽きて早く帰りたいのに何もない印旛沼で親たちは楽しそうに談笑していました。茶店の周りには毎年行く度に繭玉が飾ってあり、今でも真冬の午後の日差しが傾き始めた印旛沼と繭玉の光景が目に浮かんできます。あの繭玉がミズキだと知りませんでした。

このミズキを特定したのは、この葉でした。ミズキの葉は解りやすく特定ができましたが、これを確認するのに3~4回撮影しました。
現在は植物の名前を特定するスマホのソフトがたくさんあります。私も以前ソフトが現れた時ダウンロードを行いましたが、その内止めてしまいました。
今はグーグルレンズを使用していますが、離れての撮影は検索不能と、まだまだデータ不足で精度が今一ですが、それでも相当検索の足しにはなります。

月見草

この時期路傍に咲いている花は月見草だけです。学生時代に読んだ太宰の小説富国百景に富士には月見草がよく似合うとありましたが、当時月見草はどんな花だか知らず、月見草を知ったのは50を過ぎてガーデニングを始めてからでした。多分小説の舞台の御坂峠にもこの花しか咲いていなかったのでしょう。
月見草を知らない人は、そのロマンチックな名に憧れますが、花や草姿はそれほど風情は感じられません。

遠くにさいたま市都心のビル群が望まれます。見沼田んぼの名物ポプラの樹です。

私はこのコニファーが林立している風景が好きです。

雨の間の早朝の見沼田んぼです。見沼田んぼは雑草との戦いの場です。我が家の家庭菜園もその只中にあります。

造園屋さんは道に張り出した木の枝を邪魔にならないように切っています。

造園屋さんの畑です。ユニックがめり込まないように床板を敷いています。

タブノキです。椨ノ木 クスノキ科タブノキ属です。常緑広葉高木、別名イヌグスと言います。25mの高木となります。

タブは、シイ、カシと共に我が国の照葉樹林帯、すなわち常緑広葉樹林帯を代表する高木でクスノキとともに古代から我が国の歴史を形成してきた木だと、近年知りました。
大木となるクスノキは舟の材料として珍重され、日本各地の鎮守の森で神木ととして祀られています。
タブノキはクスノキと同じように、材、樹皮、枝葉、実全てを余すことなく利用してきました。材は丸木舟、建築材、船舶材、トラック部材、家具、線香、木炭材などその脂身の富む材は、クジラのごとく余すことなく用いられてきた有用材です。

氷川女体神社の神木タブです。

ご神木タブの全景です。タブは黒潮に乗って来た木と言われています。海人族はタブの丸木舟に乗って日本列島にやってきたのでしょうか。
暖地の照葉樹林が関東まで覆っていることを想うと、西日本から関東まで黒潮文化圏のような気がします。

タブノキについては法政出版局山形健介著タブノキの名著を読んだので、いつか触れたいと想います。

シマトレリコ モクセイ科落葉広葉高木 沖縄原産で樹形が美しいことと5~6月に小さな花をふんわりとした房のように咲かせるため、1990年代からオシャレなシンボルツリーとして普及していますが、根の伸長力も旺盛で10~25mの高木になります。

シマトレリコの葉

落葉広葉高木 ムクロジ(無忠子) ムクロジ科ムクロジ属 高さ15~20mの高木になります。

秋の黄葉は美しく、実は固く数珠や羽子板の羽の玉になり、昔から寺院に良く植えられて来た神聖な樹です。

ムクロジの葉

ヤマボウシ(山法師)ミズキ科ミズキ属 落葉広葉中高木 樹高は4~8m
初夏の白い美しい花と紅葉が魅力の人気の花木です。
昔中央線の車窓から山の中腹に所々咲いている白い花の樹が印象的で、それ以来覚えました。 

山法師の葉

山法師の連なり

このアーチの向こうが昔一面石楠花畑だったと家内が話していました。私は全く記憶がなく要は私の目に石楠花畑は目に入っていなかったのでしょう。
当時石楠花は山で見るもので、平地で見るものでないと想っていたので、そんな思い込みで眼に入らなかったのでしょう。

路傍にむくげが咲いていました。多分昔は沢山咲いていたのでしょう。たくさん咲いていた時は多分目に入っていなかったか、犬も亡くなっていたので見沼田んぼの散策は行っていなかったのかも知れません。

見沼田んぼの耕作放棄地は近年の農業法人がネギを栽培しています。今はネギも耕したり植え込んだり、取入れは全て機械化されており、人が行うのは収穫後のネギの束ねる作業です。家内は今の時期ネギは1本100円するので雑草処理さえ行えば、十分ペイするのではと言っています。これだけの黒ボク土の肥沃な畑を放置していては勿体ないです。

このネギ畑は除草が行われていますが、他のネギ畑でネギの間から雑草が伸びているのを見ると、高温多湿の我が国では作物の成長は早い反面、雑草も同じく成長するため、自分が農業従事者だったらと思うと決して甘い世界ではありません。