薔薇のエッセイ2、杏の花とアプリコットの薔薇。
「80歳の壁」という老人の生き方本がベストセラーになっています。
この書物の中で、老人は過去の楽しい思い出に浸ることが、痴呆防止に大いに役立つと述べています。
考えて見たら、私たち老人は先が長くないため未来は無いし、あるのは現在と、過去の想い出しかありません。人の記憶は上手に作られているもので、誰もが持っている過去の哀しい思い出や辛い思い出は、長い時間かけて記憶ファイルの中で薄められて行きます。逆に楽しかった思い出の方が、記憶ファイルの中で色褪せることなく優先的に現れてくるような気がします。
また歳を重ねると一つの知恵が働き、毎日現実に接している情景の中でも、楽しい記憶に値するものや美しく感じたものだけを選択し、記憶ファイルに保存しているような気がします。
生きていれば様々なことに直面しますが、日常のふとした印象の記憶を映像の形で留めおこうと、心の中で積極的に意識し始めたのはガーデニングを始めてからでした。私にとって映像を記憶するキーワードは美しさでした。それも私の脳の中だけでは記憶できないため、実際の画像の力も借りて記憶しようと試みたのです。
登山では、山に行かないと美しい光景に接することはできませんが、日々の身近な暮らしの中で自然の美しい風景に出会うことができるのは緑や花で、出会う場を実現する舞台がガーデンでその手段がガーデニングでした。
ガーデニングを始めた時は、画像の記録はフィルムカメラでしたが、ソニーのサイバーショットが発売され画期的なデジカメの時代に入りました。フィルムカメラで撮影したアルバムはめったに開くことはありませんが、ハードディスクに記憶したデジカメの画像は記憶の確認に威力を発揮しています。
今回たまたま杏の花に接し、杏の英名のアプリコットの薔薇を想い出してしまいました。私が薔薇にのめり込んだきっかけの一つは、それまで知らなかったアプリコットカラーの薔薇の存在で、それらは私に薔薇の優しい自然な花色の存在を教えてくれたのです。
隣に家庭菜園を借りていた人が、辞めてしまったため、菜園の面積が2倍になってしまいました。
辞めた人の菜園の端に2本の樹木があり、その1本は杏の樹でした。私は野菜作りは興味がないため菜園にはめったに訪れたことも無く、杏の花が咲く姿も観たことがありませんでした。
この杏の樹には、私の大好きなカラスウリが絡まっていたので、生茂った枯れたツルを取り除いていた際に、杏が花芽を付けていることに気が付きました。今まで家内も自分が借りた菜園の樹でないために、杏の花が咲いた季節も私には何も言いませんでした。
杏は桃の花と開花時期が同じです。桃が満開の季節を迎えて直ぐに、杏も樹全体に花を付け始めました。杏の花はこぶしと同じく寒い山国や北国のイメージがあり、寒い冬を押しのけて自力で春を切り開く力強さを感じます。
家内は開花した杏の花を初めて切って花瓶に活けました。私にとって、杏の花を見るのは生まれて初めての経験だったのです。
私にとって杏の花は幻で、長い間憧れでした。
19年7月に友人とレンタカーとトレッキングで4日間の信州を旅しました。戸隠を歩いて、車で鬼無里から田毎の月で有名な姨捨伝説の長命寺に寄りました。そして近くの道の駅で蕎麦を食べた時、店内で杏の実やドライフルーツ、杏ジャムなど山積みして販売しているコーナーがありました。
実は今まで杏の実を見たことがなく、その時初めて杏の実を見たのです。
最近では糖分が多いため控えていますが、ずっと以前から私は杏のドライフルーツが大好きで時々スーパーで購入していましたが、裏のラベルの生産地を確認すると全てがトルコ及び中東製で、国産表示の杏に出会ったことはなく、我が国では杏の生産量が少ないためかなと漠然と思っていました。
ある時穂高登山の帰りに、島々の駅前で地元名産を並べている臨時の屋台店で杏のドライフルーツを見つけました。杏の里と同じ長野県だから、国産だと思って喜んで3袋も購入し帰宅してさあ食べようと袋を取り出したら、全てトルコ産でがっかりしてしまいました。
姨捨の道の駅は、杏の里と同じ千曲市にありました。早速杏の実を購入しましたがこの時、店の人から杏が極めて傷みやすいことを聞き、そのためかほとんど流通しないことを知りました。そして収穫も困難で実が熟したら直ぐ採る必要があり、直ぐ傷むため採集後直ぐ食べなければいけないことを聞きました。その話を聞いて私が今まで杏の実を食べたことがなく、ドライフルーツでも国産に出会う機会が無かった理由が分かりました。帰宅するまでもう2晩泊る計画でしたが、宿でなく帰宅してゆっくり食するために傷むことを承知で購入したのです。
帰宅した夜、食後に食べましたがやはり傷みが進んでいました。傷み始めた杏を食べながら、杏は女の子の名に使われるぐらい名高いのに、杏の実が生食の果物として店頭に並ばない意味が分かったのです。
初めて知ったアプリコットカラーの薔薇に惹き付けられました。
ガーデニングを始めた当初、薔薇の花色は赤、白、ピンク、橙と黄色などの派手で強い色しかないと思っていたため薔薇には手を出しませんでした。
それまで花にガーベラとかベゴニアなど派手な色のイメージしか持っていなかった私が、ガーデニングを始めたきっかけは、高山植物に似た小輪多花のアメリカンブルーとの出会いでした。ガーデンセンターで樽植えで群生するアメリカンブルーと初めて接した時、こういう花が身近にあれば、わざわざ山に行かなくても自然は味わえると思ったのです。
それから野の花に似た草花に目覚め、球根や一年草、宿根草など小輪の花々を高山植物に似せて大型コンテナや庭に植え、自分なりに高原の草原のような自然の風景の一部分を切り取るつもりで、狭い庭に自分なりにそれらを再現した場を作り始めました。
草花を始めると当然薔薇にも眼が行きますが、当時私が漠然と想っていた薔薇のイメージは人工的で、高原のような自然の風景と余りにも遠い存在でした。
それでも草花を植えた空間に花が必要になり、ツルバラを植えましたが、やはり色や形が合わないことに改めて気付きました。
花壇の空間を埋めるために、初めて購入した赤色の2本のツルバラは、3年経ち成長してたくさん花を咲かせましたが、花は大輪の剣弁高芯咲きで、やはり案じていた通り、自然のボーダー花壇を夢見て、狭い花壇に植えた野草風の宿根草と全然雰囲気が合いませんでした。
大型になった2本のツルバラは知人に進呈してしまいましたが、草花と薔薇を合わせるのは難しいのかなと感じていました。
ちょうどそんな折、英国に行くことになり、ガーデニングの本場のチェルシー・フラワーショーやガーデンセンターを見る機会があり、薔薇には私が植えたハイブリット・ティの花とは全く異なる、いわゆる優しいイメージのロゼット咲きの薔薇があることを知りました。
ハロッズの書店で日本にはないガーデニング本の品揃えに接し、薔薇図鑑や日本に無かった草花のギャザリングの本などを購入しました。夜ホテルの部屋で薔薇図鑑を開くと、ガーデンセンターで出会ったイングリッシュローズやオールドローズは、シュラブローズというジャンルの薔薇であることを初めて知りました。
英国の郊外の家の庭には、日本で見かけない小輪の枝のしなやかなツルバラが仕立てていて、それらがランブラーローズと呼ばれていることも知りました。ガーデンセンターでヒマラヤの名が付いたポールズ・ヒマラヤン・ムスクを見て感動し、それらの記憶を図鑑と照合しながら眺めていると夜の更けるのも忘れてしまいました。
画像の書物はイングリッシュローズを作出したデビット・オースチン著の「ENGLISH ROSES」です。本を開くと日本で見ることが無かったロゼット咲きの薔薇が魔法の玉手箱のように並んでいました。当時翻訳されていなかったこの著書を手に入れ、辞書片手に少しずつ翻訳し始めました。読了に3か月を要しましたが、本書によってオールドローズの歴史を知り、イングリッシュローズはオールドローズの自然な樹形のシュラブの性質を活かしながら、古い薔薇の香りの復活とモダンローズの長所の四季咲き性と多彩なカラーを目指した薔薇であることが分りました。
本書で薔薇の香りが、ミルラ、ダマスク、ティ-ローズ、フルーティ、ムスクに分類されることと、イングリッシュローズの多彩なアプリコットカラーに惹きつけられたのです。
訳文はノートに記録しながら悪戦苦闘で行いましたが、ただ読むだけだったら、薔薇についてそれほど頭に入ることは無かったでしょう。それまで我が国で出版された薔薇の書物は何冊か読みましたが、ほとんどがハイブリット・ティの栽培に関するもので、この著作に描かれていたシュラブローズの存在と歴史は私にとって目から鱗でした。
高校時代から西欧のアルピニストの山岳登攀記に親しんで来ましたが、これら趣味の山岳書はプロの翻訳家でなく、我が国の登山家が外国の登攀記や登攀技術を知りたくて翻訳して来たことは知っていました。あらゆる海外文化が導入されつくしていた時代、シュラブローズという薔薇の世界に未だ知らないジャンルが残っていたことに気が付き、薔薇を知りたい一心で洋書を読む喜びを味わいました。
本書を読みながら、私の小さなまねごとのボーダー壇の上部の空間を埋めようと植えた赤いツルバラがなぜ、なぜ花壇の宿根草と合わないか良く判ったのです。
更に原種やオールドローズの歴史をより深く知ろうと、ピーター・ビールズ著「CLASSIC ROSES」も続けて読みました。こちらは500頁近い原種やオールドローズ、ランブラーローズのdictionaryで、著者独特の言い回しのため翻訳にてこずり、読み終わるのに3年かかりました。
本書によってガートルド・ジェキールがイングリッシュガーデンに初めてランブラーローズを取り入れたことや、オールドローズからハイブッリト・ティ誕生の前夜、或いは世界各国の気候によって、薔薇の姿が変わることを学びました。本書は余りにも膨大なため日本では翻訳されていません。
乏しい英語力でピーターとオースチンの著作と格闘した結果、シュラブローズについて多くの事を学びました。当時我が国ではオールドローズやランブラーローズなどのシュラブローズの栽培方法も紹介されておらず、シュラブローズの栽培法はハイブリット・ティの方法をそのまま紹介されていました。
また当時我が国では薔薇、特にハイブリット・ティは花単体の美しさが強調されていましたが、ピーターやオースチンは薔薇、シュラブローズは庭づくりの素材という観点から、その樹形の美しさに力点を置いていました。2人ともハイブリット・ティは20世紀に咲いた一時的なな仇花という観点でとらえ、オールドローズやイングリッシュローズなどのシュラブローズこそが、ガーデンローズの本流であると主張していました。
あの当時から20数年経ちました。現在では世界中どのバラ会社も毎年新商品で販売するバラは、ほとんどシュラブローズです。
当時翻訳していてシュラブローズの的確な和訳が見つからない事に気が付きました。現在ハイブリット・ティなど木立性の薔薇にはブッシュタイプと訳している本もありますが、登山の世界ではブッシュは英和辞典通り藪や灌木の意味で使われて、無理やり和訳せずそのままブッシュを使用しています。現在ではシュラブローズを無理やり和訳せず使っているようなので良いと想います。
もう一つバラ用語で難しいのは四季咲きの解釈です。ピーターの著書では、薔薇の開花期間を一季咲き、連続開花咲きcontinues floweringと返り咲きripeat floweringの3つに明確に分けています。しかし私が最初に購入したツルバラは四季咲きとうたっていましたが、2本とも1季咲きでした。
四季咲きの性質は、栽培国の気候環境もかかわってくるため難しい問題もあります。たとえば一般的に返り咲きripeat floweringの薔薇は初夏と秋咲くと思う人も多いですが、5月と6月に咲いてそのまま翌年まで咲かない薔薇も結構あるのです。
また薔薇はクレマチスのように自ら巻き付くツル性でなく登って行くだけの性質ですが、日本ではクライミングローズをツルバラと和訳してきました。しかしこれはこれで分かりやすいと想います。
登山の世界では大正、昭和にかけて紹介された登山用語は、無理やり和名を当てずにそのまま原語を使用しています。当時山岳書は、プロの翻訳家でなく実際に必要な登山家たちが英書や仏書、独書を翻訳し、和訳出来ないものは無理やり和訳せず、そのまま原語を使用していました。
全くの余談になりますが、登山の世界での和訳の扱いを、谷を辿る登山を例に採って見ます。
広い谷(ヴァレー)が山中に入り、両岸に岩が迫り極端に細くなる場所はゴルジュ(廊下)となり、やがて谷は狭まって沢になります。沢筋に生えている低木はブッシュ(藪)と呼ばれ、やがてそれらも無くなり、岩だらけの細い沢は、和名がないためルンゼという原語を使用します。通常の山塊はルンゼからコル(鞍部)に突き上げますが、穂高や劔や谷川の岩場では、ルンゼは聳えるフェース(岩壁)によって遮られていることが多いです。
一枚岩のフェースの登攀は困難なため、クラック(岩の裂け目)を見つけて直上します。フリークライミングではカム(訳語無)を使用しザイル(ロープ)を通してビレイ(確保)しますが、昔はリス(割れ目)にハーケン(訳語無)を打ち、昔はゼルブストと言い、今はハーネス(訳語無)のカラビナにザイル(ロープ)を通し、困難な場所では吊り上げ(原語無)を行って登攀します。もちろん確保者はセルフビレイ(自己確保)が必須です。またフェース(岩壁)正面を避けてフェースの端のリッジ(細い急峻な尾根)を辿りピーク(頂上)に登る場合が多くあります。
登山の例をあげましたが、登山に精通していなくても意味は分かると想いますが、近年困ったことはコンピュータ用語です。原語も分からないと同じく和訳も分かりにくいものが多いです。たとえばデフォルトの和訳は初期化です。以前は家電メーカーがPCを生産していて、取説の用語の解説も家電と同じく解り易い日本語を使用していましたが、近年特に国産PCメーカーがPCから撤退したため、マイクロソフトなどの外国語のPC用語が翻訳せず、あるいは日本語の文章になっていない翻訳文でモロにユーザーに迫ってきます。
画面でこの説明は役に立ちましたか?など問いかけがあり、はい、いいえの選択を要求してきますが、困ってしまいます。
政府は、世界の趨勢から高度な科学知識の人材を育てるために自然科学分野教育に傾斜する方針を出していますが、自然科学の成果は人文科学分野の素養がないとコミュニケーションができないため、人文科学も不要として軽視するわけにも行きません。
シュラブローズの庭
シュラブローズは個々の花の美しさより、花、葉、茎、など総体の樹形の美しさが基本となり、枝が細く小スペースでは自立しにくいため、サポート用具や誘引作業が必須です。半年間咲き続ける一年草と違って、シュラブローズは花を咲かせる期間が短いため、ガーデンに緑の風景を持ち込むために最適な植物です。
私たちは自然の緑を美しく感じるのは、花の中に緑があるのではなく、緑の中に花があることです。
この画像は02年か03年の20年前の、我が家の庭に庭木がまだ生えている時代の画像です。
薔薇は頂芽優勢という枝の先端に花を咲かせる基本的な性質があるため、枝が多い薔薇ほど花の量が多いのです。シュラブローズはハイブリット・ティなどの木立性の薔薇と違って、枝が細くしなやかで、枝の数が多いため、花の量は圧倒的に多いという特徴があります。
反面、枝が細くしなやかなため狭い場所では自立しにくく、アーチ、オベイスク、トレリス、フェンスなどサポート用具を使用したサポートが必要となりますが、
サポートすることによって空間を演出することも可能です。
ハイブリット・ティだけでは平面的で薔薇庭の空間は演出できません。
薔薇の基本色・ピンク・白・赤・イエロー
この画像は20年前のカラーの組み合わせはあまり考えない時の画像です。
メイアンのゴールドバニーの発色の良い黄色に見せられクライマーを植えて伸ばしました。奥の赤は最初はトラディスカントを植えていましたが、枯れたためLDブレイスウエイトとギネーを植えました。中央のピンクのCLレディ・シルビアは左側に誘引しましたが、枝が余って来たので中央のアーチに引っ張ったら、赤、ピンク、黄色の何の脈路もないカラーの組み合わせになってしまいました。ゴールドバニーの黄色の発色が強すぎたのです。当時は、薔薇園でもこの組み合わせが普通の時代でした。
30年前の薔薇図鑑が手元にありますが、薔薇の分類はハイブリット・ティとフロリバンダ、ミニバラ、ツルバラで、薔薇の花色は赤、朱色、ピンク、オレンジ、黄色、白で、アプリコットの色名はありません。アプリコットネクターがフロリバンダで紹介されていますが、唯一の杏色と表記されています。
私が薔薇を始めた1995年当時は薔薇をガーデン素材でなく、菊の花のように花単体を楽しむ文化でした。また杏も果物として流通していなく、私のように杏の実を見たことが無い人が大半で、したがってアプリコットの単語も一般的でな無かったと想います。
同じころの英国の薔薇図鑑には、オールドローズも掲載されていますからアプリコットカラーの薔薇は多く見かけました。
アプリコットが加わると
上の画像にアプリコットと白を加えました。左の小さな白い薔薇はオールドローズのアルバのマダム・ルグラ・ドゥ・サンジエルマン。奥のアプリコットはイングリッシュローズのエイブラハム・ダービー、手前はパティオローズのスイート・ドリームです。
アプリコットと白が加わることによって、ピンク、赤、黄色がグラデ-ション効果によって繋がりました。
薔薇の花色の基本はピンクです。ピーターは美しいローズガーデンを作るのだったらピンクと白を6割にしなさいと言っていました。薔薇の原種のカラーはピンクと白で、他は後世作られてカラーです。薔薇の花のトーンにはハイブリット・ティやフロリバンダなどのモダンローズに共通したビビッドな花色と、オールドローズやイングリッシュなどのソフトカラーがあります。イングリッシュローズの最大の特徴はソフトカラーにあり、ローズガーデンを纏めやすい花色が揃っています。
ローズガーデンを美しくまとめようとするなら、ソフトカラーの薔薇を使用してソフトピンクからローズピンクまで幅の広いピンクを中心にして、赤系の薔薇の隣にピンク系のアプリコットを、赤系とイエロー系の薔薇の間にはイエロー系のアプリコットを挟みます。またピンクと赤の間には紫を配するとグラデ-ションがつくれます。ホワイト系の薔薇は便利で、ガーデンの圧迫感を和らげる効果があります。
ソフトカラーとビビッドカラー
先に触れたように薔薇の色の系統には主にビビッドカラーとソフトカラーがあります。ビビッドカラーはハイブリッドティに多くはっきりとしたきつい色です。反面ソフトカラーはその名の通り優しいカラーで、オールドローズやイングリッシュローズなどのシュラブローズはソフトカラーが主流です。
ビビッドカラーは近代になって生まれた花色で、差し色としては有効ですが、自然風なガーデンを作る場合ソフトカラーでまとめた方が調和しやすくなります。
ここでは触れませんが、実は私はアプリコットとともに赤系の薔薇にもこだわっていました。赤は選択の難しいカラーで、ローズガーデンを生かすも殺すも赤次第です。
薔薇の世界にアプリコットを持ち込んだオールドローズたち
過去に記録したハードディスクの薔薇のファイルを開けてみると、既に枯れてしまった薔薇、今でも健在な薔薇など、長い間ガーデンを共にしてきた薔薇たちが顔を覗かせます。その中で今まで春夏秋冬、共にしてきた薔薇の中からアプリコットカラーの薔薇を取り出してみました。
もちろん、好きな薔薇はアプリコットだけでなく、ピンクや真紅や紫の薔薇にもこだわってきましたが、アプリコットの薔薇はどちらかといえば強い自己主張が少ない脇役の薔薇です。もしガーデンにアプリコットの薔薇が無かったら、自己主張の強い薔薇だけが残り、自然の風景とは程遠い人工的な空間になってしまうでしょう。
そういう庭を好む人もいますが、私は身近な日常に自然の風景をつくろうと意図していたために本能的にアプリコットカラーに惹き付けられたのです。
グロワール・ドゥ・ディジョン
グロワール・ドゥ・デジョンは、英国でオールド・グローリー・ローズと呼ばれたクラシッククライマーです。
ガリカ、ダマスク、アルバ、ケンティフォリアなど一季咲きのオールドローズが作出された後、18世紀に中国から四季咲きの遺伝子を持つチャイナローズが英仏に渡り、多くの返り咲きのオールドローズが産まれました。
グロワール・ドゥ・デジョンは1853年フランスのアンリ・ジャコットが作出したオールドローズで、ティ-ローズとノアゼットの交配から産まれた品種で、チィーローズの強い芳香と、ムスクローズの血を受けた大型のシュラブ樹形が特徴でした。
デビット・オースチンは初期にはイングリッシュローズの育種系統を公表していましたが、氏の著書「ENGLISH ROSES」で、初期の品種が、どのようなオールドローズやモダンローズから作られたか解説していました。
「ENGLISH ROSES」の中で従来のハイブリット・ティの花色に無かった多数のアプリコットカラーのイングリッシュローズが紹介されていますが、アプリコットカラーでも、ピンク系とイエロー系の品種がありました。
オースチンはイングリッシュローズの品揃えに、ハイブリット・ティのビビッドカラーとは別なソフトカラー目指していました。
またそれまでのハイブリット・ティにはアプリコットカラーは無く、橙色や朱色だけがありました。
オースチンはローズガーデンづくりでのアプリコットカラーの重要性を認識し、新たなアプリコットカラーの薔薇を目指し、グロワール・ドゥ・デジョンを交配親としてイングリッシュローズのアプリコットの品種の作出を目指したと述べていました。これを読んで、グロワール・ドゥ・デジョンは私にとって最初のアプリコットカラーの薔薇になりました。
グロワール・ドゥ・デジョンは庭に植えて3年目で2回のベランダまで登ってきました。花は秋に咲く返り咲きでなく、初夏の一番花、そして6月の2番花が咲きました。
グロワール・ドゥ・デジョンの特徴はノアゼットの細い枝とライムカラーの美しい葉色にありました。上の画像の下側に蕾をびっし付けたヒマラヤンムスクが見えます。グロワール・ドゥ・デジョンの美しいライムの葉とヒマラヤンムスクの密集する小さい葉に接していると、シュラブローズの葉の美しさが庭づくりのキメ手になることに気が付きました。
イエロー系のアプリコットやイエローのシュラブローズの葉は、グロワール・ドゥ・デジョンの美しい葉と同じく、ライム色が多くおそらくアルバローズの血が入っているのでしょうか。
残念ながらグロワール・ドゥ・デジョンは6,7年で枯れてしまいました。当時我が庭にはコガネムシやカミキリムシは未だ飛来してこなかったので、枯れた原因は分かりません。
ハイブリッドムスク、バフ・ビューティ
バフ・ビューティとは黄土色の美人とでも訳すのでしょうか。独特のバフカラーは庭で異彩を放ちます。
バフ・ビューティは20世紀に作られた最後のオールドローズのハイブリット・ムスクのグループに属しています。
ハイブリット・ムスクは、20世紀初頭に英国エセックスの牧師のジョセフ・ハードウイック・ベンバートンが、恐らく教会の敷地で手のかからない薔薇づくりを目指し試行錯誤しながら生涯かけて作出を開始した薔薇のグループです。途中からジョン・A・ベントールがこの作業を手伝い、ベンバートンが引き継いでハイブリットムスクを完成させました。
ムスクとは「麝香」の香りのことで、ムスクローズの血を引くノアゼットの「レープ・ドール」を親バラした「アグライア」とハイブリットティとの交配で産まれた品種を用いて、四季咲きの個性あるシュラブローズを誕生させたのです。
ハイブリット・ムスクは、花を観賞するための薔薇というより、手もかからず強靭でしかも花を繰り返す実用的なガーデンローズの極致と私は思っています。ハイブリット・ムスクの特徴は、しなやかな樹形でそれほど野放図に伸びないため、限られた空間でクライマーの代りに使用できることです。花は品種によってそれぞれ特徴があり、多くは小さな花が集合した大きな房咲きで、花を繰り返しローズガーデンの個性ある脇役として、庭に奥行きを与えてくれます。
私はバフ・ビューティから初めてハイブリットムスクの存在を知り、ピーターの著作でベンバートンとベントールの事を知りました。以来プロスペリティ、ペネロペ、フェリッシア、ダナエ、コーネリア、バレリーナ、フェアリーなど栽培して、薔薇本来のガーデンローズとしての機能を体感しました。
ノアゼット、デプレ・ザ・フルール・ジョーヌ(英名)
ノアゼットとは、ポ-トランド、ブルボンと同時期にアメリカで登場した四季咲きのオールドローズで、大きく伸びるためオールドクライミングローズとして使われています。
ノアゼットの起源はサウスカロライナ・チャールストンの米農家のチャンプニーズが、隣人のヅランス人のフィリップ・ノアゼットから貰った「パーソンズ・ピンク・チャイナ」のお返しに、「ロサ・モスカータ」と交配して産まれた苗「チャンプニーズ・ピンク・クラスター」をノアゼットに贈りました。
ノアゼットはこの苗を再交配してパリにいる兄のルイに送った結果、ルイはそれが新品種の重要なバラであると認識し、1811年ノアゼットと名付けました。
このオリジナル品種「ブラッシュ・ノアゼット」は連続開花する素晴らしい遺伝子を持ち、クライミングローズとして最初の定期的に花を咲かせる品種となったのです。
ノアゼットの特徴は、大きな房となって繰り返し花を咲かせるクライミングローズで、枝は細く誘引しやすく、美しい緑の葉だけでもガーデンローズとして価値があります。枝が柔らかい割には、壁などに何箇所か支点をとれば、素直に上に伸びて誘引しやすいクライマーです。樹形が美しく、花も主張も控えめなため壁面仕立てや、仕切りフェンスに背景を作る壁紙的な仕立てが適しています。
デプレ・ザ・フルール・ジョーヌは1830年にフランスのジャン・デスプレが作出したノアゼットで、アプリコットイエローのボタンアイを持つ花とライムの葉とのコンビネーションが見事で、ガーデンを明るくしてくれます。
デプレ・ザ・フルール・ジョーヌはグロワール・ドゥ・デジョンに次いで購入したノアゼットで私のお気に入りの薔薇でしたが、カーポートを広げるに当たり地植えからコンテナに移植した後、枯れてしまいました。以来グロワール・ドゥ・デジョンとデプレ・ザ・フルール・ジョーヌは栽培したことはありません。
ノアゼット、アリスター・ステラ・グレイ
今ではノアゼットやハイブリットムスクは一般的な薔薇になりましたが、私が薔薇を始めた当時、我が国においてバフ・ビューティとブラッシュ・ノアゼットは単体の薔薇として紹介された以外、オールドローズのグループとしてのノアゼットやハイブリットムスクは、ほとんど紹介されていませんでした。
私はハイブリッドムスク同様ノアゼットにこだわり、ブラッシュ・ノアゼット、グロワール・ドゥ・デジョン、デプレ・ザ・フルール・ジョーヌ、アリスター・ステラ・グレイ、マダム・アルフレッド・キャリエール、レープ・ドール、ラマルクなど次々と栽培しました。
アリスター・ステラ・グレイは1894年英国のヒル・グレイによって作出されたノアゼットで、豊かなティ-ローズの香りを備えています。
咲き始めの花は魅力的で、やがて全開になりますが、デプレ・ザ・フルール・ジョーヌと同じく花とライムの葉とのコンビネーションに優れますが、自己主張が少なく、自然風なガーデンの景観を作る素材として名脇役を演じます。私はこの薔薇を特に気に入って2本を栽培していました。
ノアゼット、レープ・ドール
レーヴ・ドールは1869年フランスのジヤン・クロード・デュシュが作出したノアゼットです。同じ育種家から「ブーケ・ドール」も生まれましたが、2種ともグロアール・ドゥ・ディジョンの血を引いているため、花が大きく見ごたえのあるノアゼットです。レーヴ・ドールもブーケ・ドールも一般に余り知られていないマニアックな薔薇ですが、それはただ存在を知らないというだけで、次々と新品種が登場する昨今の薔薇の中でも、堂々と渡り合える実力を備えた薔薇です。
我が家のレーヴ・ドールは数年前コガネムシの幼虫の食害で満開の薔薇が1週間で枯れてしまいました。
ティーローズ、レディ・ヒリンドン
1917年英国のロウ&シャウヤーが作出したティ-ローズクライマーのレディ・ヒリンドンです。大輪の高芯咲きの存在感が溢れる薔薇で、そのクラシックな雰囲気に魅了されます。
子供の頃から軍事おたくですが、私が一番好きな時代の軍艦は気走艦です。いわゆるペリーの黒船の帆と蒸気機関と併用した軍艦で、近代と現代の狭間に生じた手動と機械動力の短い時代に船舶です。
同じように薔薇でも、ラ・フランス、オフェリア、マダム・カロリン・テストウやマダム・バタフライなどアーリーハイブリッド・ティと言われたオールドローズとモダンローズの狭間に存在した薔薇にも強く惹かれました。ハイブリット・ティは巨大輪のピース以前とピース以後に分かれますが、ティ-ローズのレディ・ヒリンドンやフラウ・カール・ドルシュキも、近代と現代の狭間の同じ時代に誕生した薔薇でクラシックな独特の雰囲気があります。
CLレディ・シルビアは長い間我が家の看板となったクライマーでした。
1933年英国のウォルター・スティーブンスが作出したクライマーでオフェリアの突然変異種です。初夏はもちろんのこと晩秋にも春と負けないくらい咲き、我が家の晩秋の切り花の供給源となっていました。
家の顔となるクライマーは、ある程度大輪で、目線で見ても、見上げても、遠方から見ても耐えられる機能が求められています。この機能を果たす品種は多くなく、ピエール・ドゥ・ロンサールやスパニッシュ・ビューティ、ロココ、アンクル・ウオーター、ギニーなど限られています。
CLレディ・シルビアはその中でも花も香りも最高でした。
多くの薔薇は現物を見ないでカタログだけで選択します。オールドローズやイングリッシュローズの数多くの薔薇を選んできた経験から、自分なりに薔薇のネーミングから選ぶコツみたいなものが身についてきました。
薔薇は低木の仲間ですが、一般の庭木と比べると強健さには雲泥の開きがあります。元々自生していた一般の庭木と比べて、日本原産のノイバラやハマナシを除くと我が国に薔薇が導入されて未だ100年未満の品種が多く、我が国のアジアモンスーン地帯である高温多湿の風土に馴染んでいないためです。
薔薇の選択要素はいろいろありますが、美しくしかも強健な薔薇が理想です。
美しさと強健さの条件に適った薔薇の選択に私なりもモノサシがありました。それは1番目はロイヤルファミリー(王族)の名が付けられた薔薇です。面倒を見なくても見事に咲かせることができるモダンローズのクイーン・エリザベスなどその筆頭です。
イングリッシュローズでは、プリンセス・アン、プリンセス・アレクサンドラ・ケント、クィーン・オブ・スエーデン、クラウン・プリンセス・マルガリータ、ザ・プリンス、クイーン・アン、などが挙げられ、エリザベス女王の周年イベントのジュビリー・セレブレーションも加わります。
2番目はレディの名が付けられた薔薇です。レディヒリンドンとレディ・シルビアを栽培していてその考えが確信に至りました。これらは貴族であるレディに献上した薔薇と想いますが、レディの名を冠した薔薇は数少なく、イングリッシュローズにはレディ・エマ・ハミルトンのようにネルソン提督の愛人の名を冠した歴史上の人物から名づけられている薔薇もあります。
3番目はマダムの名を冠した薔薇です。これも実在の奥方の名を冠していると想いますが、変な薔薇には名づけられないでしょう。マダム・ハーディ、マダム・ピエール・オジェ、マダム・アオザック・ペーリア、マダム・アルフレッド・キャリエール、マダム・カロリン・テストウなどが挙げられます。
ポリアンサ、ペルル・ドール
1884年フランスのジョセフ・ランボーが作出したポリアンサで、ピーターはペルル・ドールをチャイナと言っています。ピンクのセシル・ブルンネそっくりで、ペルルドールはアプリコットです。
我が家では20数年前から健在で、ハイブリット・ティに似た高芯咲きの小さな花は何回も繰り返すため、チャイナと想っていても不思議ではありません。
コンパクトでいつも足元を覆い、ガーデンローズとしてハイブリットムスク以上の安心感があり、こういう薔薇が無いとガーデンは単調になってしまいます。
パテイオローズ、スィートドリーム
英国のガーデンセンターで鉢植えのこの薔薇を見た時、思わず買って帰りたいと想いました。しかし検疫の都合上植物は持って帰れませんので諦めました。
スイートドリームは今まで3回コンテナで栽培していましたが意外に短命でした。スイートドリームは薔薇好きでなくても、誰もが愛する風貌の薔薇のため、今まで何人か鉢植えにしてお祝いで贈ったことがありました。
スイートドリームは1987年英国のフライヤーが作出したパティオローズですが、パティオローズとはミニバラとフロリバンダの中間の大きさを意図した薔薇のグループです。しかし花の大きいミニバラが登場したため、パティオローズというジャンルは無くなっているように想われます。
私にとってスイートドリームは思い出深い薔薇の一つです。
モダンクライマー、アルキミスト
大昔、私が薔薇を始めた頃、NHK-TVで英国BBCの薔薇番組を放映したことがありました。BBC放送らしく、世界各地に飛んでオールドローズの起源の深訪から、モダンローズへと発展の歴史、メイアンのピースの誕生から、世界の育種家を紹介し最後に理想の薔薇としてこのアルキミストを紹介していました。
この番組が頭に入っていつかはアルキミストを栽培しようと思っていましたが、自分の中では優先順位が低いままに来てしまいました。理由はイングリッシュローズのアプリコットに対して、アルキミストは完全なモダンローズのため未知の魅力に乏しかったからです。
3,4年前新苗を購入し、7号鉢で2年栽培した後、一番大型のデローマのテラコッタに植えていますが、かってBBCが理想の薔薇と言っていた割には、それほどでもない感じがしています。20年以上優先順位が低い薔薇のままで正解だったような気がします。多分アルキミスト自身はそんなつもりは無いのに、BBCに持ち上げられて迷惑しているのかも知れません。
アプリコットカラーのイングリッシュローズ
ゴールドバニーが枯れて、黄色が無くなりエイブラハムダービーのアプリコットが大型になり、カラーの組み合わせが落ち着いてきました。赤薔薇はLDブレイスウエイトとクライマーのギネーの2本入っています。
スイートジュリエット
初期のイングリシュローズファンは、エヴリンやガートルド・ジェキルと共にこの薔薇によって香りに目覚めた記憶があると想います。
1989年作出の中輪ロゼット咲きの典型的なイングリッシュローズで、強いティ-ローズの香りが魅力でした。
イングリッシュローズとしては比較的直立型の低い樹形で扱いやすく、繰り返し良く花を咲かせてくれました。
12号コンテナで栽培していましたが、思ったより短命で終わりました。
エヴリン
エヴリンは初期のイングリッシュローズのファンにとってアイドル的な薔薇でした。カップソーサーのようなシャローカップの花形に魅了された人は多かったと想います。
フランスの香水会社エヴリン社とコラボしたネームで濃厚なダマスクの香りが楽しめました。
私のエヴリンは短命でデジカメに変えてから、画像はほとんど残っていません。
エイブラハム・ダービー
1997年エイブラハム・ダービーは、私がイングリッシュローズを栽培し始めてから、今日まで26年間、暮らしを共にしています。12号の大型コンテナで栽培していますが、まだまだ枯れそうも無いのでしばらく共に暮らせそうです。
エイブラハム・ダービーの特徴はがっちりとしたシュラブを形成し、花首も強く重量感のあるクォ-タロゼット咲きの花を支えます。カラーはアプリコットピンクで光やシーズンによって花色が異なることも魅力です。
今は絶版の薔薇になったようですが、イングリッシュローズの金字塔ともいえる薔薇です。エイブラハム・ダービーは英国の産業革命の創始者の名ですが、薔薇のエイブラハム・ダービーも薔薇革命を促進した立役者と言っても過言ではありません。
アンブリッジ・ローズ
私はイングリッシュローズを栽培していて、良い薔薇と想った品種は皆ミルラ香の薔薇でした。ミルラ香とは没薬の意味で、日本と馴染みはありませんが、カンラン科の植物の樹脂から抽出したエッセンシャルオイルは香りも良く防腐効果も高いため、古代エジプトではミイラを作る際防腐剤として使用されました。ミイラの語源はミルラとも言われています。
アンブリッジローズは美しいカップの花形が人気でやがてロゼットに変わります。花を良く繰り返し樹形も比較的コンパクトなので、育てやすいですが、それほど長寿ではありませんでした。
ウイリアム・モリス
英国の産業革命が進行している中で、美学者、哲学者のラスキンは産業が全て機械化されていく社会に対して、芸術と建築の観点から警鐘を鳴らし中世の職人的な仕事に価値を見出しました。ラスキンの思想を引き継いだウイリアム・モリスは、教会や市庁舎でなく、個人の暮らしの中にこそアートを取り入れようとアーツ・クラフツ運動を展開しました。このモリスのアーツ・クラフツ運動は、形を変えて日本の民芸運動を促進したし、チャールズレニー・マッキントッシュの活動を生み、ガートルド・ジェキルのイングリッシュガーデンを生みました。
そんな偉大なモリスの名を冠したイングリッシュローズのウイリアム・モリスは、重い花を支えながら垂れて咲く風情の薔薇で、オベリスクに仕立てていました。
クラウン・プリンセス・マルガリータ
以前は、イングリッシュローズを中心に華やかだった我が庭も、近年ブランド薔薇を全く購入していないので、数少なくなった華やかなイングリッシュローズの1本です。
イングリッシュローズばかりに取り囲まれていると、その華やかさで個々のイングリッシュローズの存在感は希薄になってしまいますが、数が少なくなるにつれて咲いた時の存在感は抜群で,改めてイングリッシュローズはガーデンの主役を演ずる薔薇であることが分ります。
クラウン・プリンセス・マルガリータはスエーデンのマルガリータ皇太子妃にちなんで名づけられた薔薇で90年代の最後を飾るイングリッシュローズの傑作です。
我が家のマルガリータは12号のコンテナでの栽培のため、大型にはなりませんが、地植えでしたらアーチも楽々仕立てられる大型のシュラブを形成します。
ゴールデン・セレブレーション
ゴールデン・セレブレーション、ティ-シング・ジョージア、グレハム・トーマス、ザ・ピルグリムのイエロー系の4種の薔薇は私にとって特に思い出深い薔薇です。現在ではグレハム・トーマスの3代目が健在で、2代目のゴールデン・セレブレーションとティ-シング・ジョージア、ザ・ピルグリムは今はありません。
アプリコットの薔薇の想い出なのでグレハム・トーマスとザ・ピルグリムについて深く触れませんが、ザ・ピルグリムは一時に500~600輪以上も咲き、多くの人に切って差し上げた思い出がありました。
ゴールデン・セレブレーションの花の存在感はイングリッシュローズのNO1だと想います。ゴールデン・セレブレーションが初めて咲いた時の衝撃は今でも鮮明に覚えていて、オースチンがこの薔薇にゴールデン・セレブレーションと名付けた意味が分かりました。
ゴールデン・セレブレーションのカラーはアプリコット系というよりイエロー系ですが、私の大好きな山吹の花色に良く似ていて、庭にアクセントをつくります。強いティ-ローズ香も魅力です。
メインの庭は一面、DIYでウッドデッキを張り、その上にコンテナで薔薇を並べています。風通しの良い広い庭で間隔をとって栽培するのと違い、どうしても薔薇の寿命は短くなってしまいます。私の経験ではコンテナ植えの薔薇の寿命は平均10年プラスマイナス2,3年と想っています。
ザ・シェパーデス
イングリッシュローズにしてはコンパクトなため10号鉢で栽培していました。アプリコットピンクの数少ないディ-プカップで繰り返し花を咲かせました。他のイングリッシュローズに比べると目立つことのない脇役的な薔薇で、かなり気に入っていましたが、10年でその生涯を終えました。
セント・セシリア
アプリコットカラーは幅広くピンク系とイエロー系がありますが、セント・セシリアはピンクアプリコットで、1998年に我が家の庭に来てから未だ健在です。
この薔薇は12号コンテナに植えましたが、セント・セシリアのソフト・アプリコットの花色は地味なため、同時期に植えたエブリンやガートルド・ジェキルの後ろ側に置き、背景としてどちらかと言えば邪険に扱って来ました。
しかしエブリンやガートルド・ジェキルが枯れてくると背後で栽培していたセント・セシリアを前面に配置することになりましたが、改めてまじかで接すると、完璧なディ-プカップの花は魅力にあふれ、しかも繰り返しよく咲き、香りはすばらしいミルラの香りで、改めてこの薔薇の魅力に取りつかれてしまいました。
セント・セシリアは音楽の守護聖人の名で、この名の由来も知っていたなら長い間邪険にしなかったかも知れません。今では地植えのオベリスク仕立てで健在で、我が家ではメインの薔薇の位置づけです。
庭は間に草花を入れないと薔薇だけでは雰囲気が固くなってしまいます。最近では薔薇以上に草花には手を抜いていますが。
グレイス
グレイスには他のイングリッシュローズの花形の完璧なクオーターロゼット咲きでないため、それらに比べると存在感が無いかもしれません。また花弁の外側が薄いピンク部分が多いため、花に圧迫感が無いためかも知れません。そのためガーデンで主役を演じるより脇役の方が適しています。我が家ではゴールデンセレブレーションの組み合わせて使用しました。
ティーシング・ジョージア
SONY DSC
グレハムトーマスとかシャルロット、ザ・ピルグリムなどはほぼ純粋のイエローですが、ゴールデン・セレブレーションやモリニュー、そしてティ-シングジョージァは、光線の加減ではロゼットの密な花弁の中にアプリコットの陰影を帯びることもあります。イングリッシュローズの花色は単純でないことが、イングリッュローズの魅力をア高めています。初夏の日差しを浴びて中輪の完璧なクォ-ターロゼット咲きの花が、一斉に咲く姿は壮観です。強いティ-ローズの香りも備えています。
レディ・オブ・シャーロット
オースチンの色名はサーモンピンクですが、濃いアアプリコットと呼んでも差し支えないカラーです。ビビッドカラーのオレンジは強すぎて、差し色としても使いづらいカラーですが、レディ・オブ・シャーロットの濃いアプリコットは、暗緑色の葉とよく合います。
英国のアーサー王の伝説物語に主人公ランスロットとともに、シャーロットという名の美しい姫君が登場します。トゲが少なく扱いやすい薔薇でした。私はこの薔薇に縁が薄く立て続けに2本枯れてしまいました。1本はコガネムシの幼虫でもう一本も多分そうだと想います。
パット・オースチン
イングリッシュローズの正式色名はカッパー(銅色)ですが、最も濃いアプリコットと考えて良いと想います。この薔薇ははオースチンの奥様の名を命名しただけあって、オースチンの自信作です。ダークグリーンの照葉にディープカップの花が良く似合い、庭にアクセントを作ってくれます。
ファイティング・テメレア
その他今まで栽培したイングリッュローズのアプリコットの薔薇にジュード・ジ・オブスキュアがありますが、ハードディスクの画像を検索すると似たような薔薇がありましたが、特定できないので今回のリストから外しました。
それともう一種、2011年に作出されたファイティング・テメレアです。この薔薇は大輪のフリルの入った八重咲きのイングリッシュローズとしては極めて異質な薔薇でした。この薔薇の名のファイティング・テメレアは、英国の画家ターナーの「解体されるために最後の錨地に曳航される戦艦テメレール号」という名画をテーマにしたものです。ネルソン提督の指揮のもとにフランス、スペイン連合軍とトラファルガー海戦に英国海軍の戦列艦の1隻として奮闘したテメレールは、その30年後、老艦のため解体されるために、蒸気船のタグボートで川を曳航されてゆく風景を描いた作品です。静かに生涯を終える場所に向かう老戦列艦に僅かな夕陽の残照が注いている名画ですが、数年前開催されたターナー展でも来ないほどの重要作品です。
イングリッシュローズのアプリコットのファイテイング・テメレアはこのターナーの絵の残照はアプリコットカラーのように強いものではありませんが、イメージして名づけたのではと想っています。
残念ながらファイティング・テメレアは花を見ることなく枯れてしまいました。原因は不明です。先日も初夏に購入したレーヌ・ヴィクトリアの大苗が定植してから枯れてしまいました。根の間に白い菌が見えたのでそれが原因かと想いますが、薔薇栽培は工業製品を購入することと違って、生き物ですからリスクはあるものです。