薔薇のエッセイ13、シュラブローズの剪定

能登の大地震は、海岸が4mも隆起した数千年に1回の大地震であったとの調査の報道がなされているし、まは半島の地殻が横に3mずれたとの調査報道もありました。震度6~7の地震が短時間に繰り返し訪れ、今までの私の経験に無い異様な地震に感じましたが、やはり尋常な地震では無かったようです。

能登地震は今までの地震に無いほど家屋の倒壊が多く、その倒壊を招いた原因が、今までの震災では住宅に耐震補強が加えられていないという評論家の論評が多かったことに対し、今回地震の専門家による数千年に1度の大地震だったという調査報道の結果、震災後、いつもの住宅の耐震評論家たちの単なる感想は消えてしまいました。

能登の家々は数千年に1回の局地的大地震の直前、ここ2年の間に震度5~6の地震に2度も見まわれ、相当ダメージを受けていた上で、今回の異常な揺れによって限界を超えてしまったといわれています。


地区全体の住宅が丸ごと倒壊してしまうと言った過去に見られない悲惨な光景に接すると、巨大地震は私たちの先祖が体験し、そしていつの日か私たちにも或いは私たちの子孫にも訪れる事態だと、改めて地震列島に生きる覚悟を強いられました。

家内は連日報道されるガザの市民たちの悲惨な状況と比べて、能登の孤立集落に自衛隊が徒歩で物資を運搬し、ヘリで安全な宿への2次避難への救出報道に接するにつけ、地球上で日本国に住むことのありがたさを実感すると言います。

本格的な雪の季節を迎え、連日報道される被災地の悲惨な映像を頭の片隅に思い浮かべ、また2年前病室で薔薇の剪定が気になっていた日々を思い出して、若い人たちと異なり、年寄りにとっては何よりも変わることがない日常が有りがたく、生きる上で何ら必需でない薔薇の手入れを行えることに改めて感謝の気持ちが湧いてきます。

主庭、前庭のクライマーとランブラーローズの剪定・誘引を終えて、主庭、前庭のシュラブローズの剪定を行ってから、薔薇の株元に落ちた剪定の小枝の清掃と雑草取りを行い薔薇の周りの土壌をほぐします。そしてコガネムシの幼虫対策でダイアジノンを撒き、ミリオンで土譲のミネラルを補給、そして有効微生物入りの肥料を施します。更に腐葉土を主とした堆肥でマルチングを行い、最後にIB肥料を施して冬の剪定作業を終了しました。

12月中旬から始めて約1か月、途中旅行や用事や日々の買い物もあり、間を縫って午前中だけの作業でしたが1か月近くも要しました。過去、海外の文献を読みながら試行錯誤しながら行って来た剪定と、土壌に関心を持って私なりに研究して来た施肥のそれぞれやり方とスピードは異なりますが、もうこれでほぼ30年間毎年欠かさず薔薇の冬作業を行って来ましたし、これからも元気でいる限り作業は続けて行きたいと想っています。


12月、剪定前のシュラブローズ

私のブログは広告と全く無関係な個人の趣味のブログであり、かって私が見たいと思っていた薔薇の季節以外の見苦しい場面や下手な剪定も、試行錯誤しながら悩んできたことも、恥を忍んで掲載することによって、これから薔薇を趣好する人に少しでもお役に立ちたいと想っています。

初夏の薔薇の光景と、冬の寒々とした薔薇の光景を改めて画像で比較すると、その落差に改めて驚かされます。


薔薇を始めた時、薔薇の本や雑誌では初夏の美しい光景しか見ることはできず、冬の剪定の光景が紹介されても、決してカラー写真では表現されていませんでした。

実際に薔薇を始めてみると冬の薔薇の光景は、緑がなく余りにも見苦しいことが分かり、改めて園芸雑誌では薔薇は初夏しか掲載しない意味が分かりました。

しかし、実際に薔薇栽培を始めてみると、剪定を終えた冬の薔薇の風景がとても好きになりました。


薔薇を栽培しながら改めて考えると、人間は夏と冬では衣類の相違だけで身体全体まで変わる訳ではありませんが、薔薇の四季の変化は生の変化そのものです。
植物、特に薔薇は真冬に葉もない枝だけの木が、春に芽吹きが始まり短い枝が伸びてその先端に花が咲き、花が咲き終わっても成長は止めず、葉は夏に向かって密集し、新しい枝も伸びて樹々は益々茂って行きます。こうして薔薇の旺盛な生命力は、芽吹き、開花に留まらず梅雨末期の葉が密集する時期にピークを迎えます。

しかし生命力のみなぎった夏が過ぎ、秋になると葉の勢いは無くなり病気に侵されて落葉する葉も多くなって、あまり水も欲しがらなくなり、やがて初冬の季節を迎えると薔薇は眠りに入ります。

眠りに入った薔薇は、人間で言えば手術での全身麻酔がかかった状態になるため、植え替え時に根を切ってもダメージは与えず、逆に次の世代の新しい根の成長を促進させる準備となるのです。枝も同じです。薔薇が眠っている時期を狙って、それまで主役だった年老いた枝を、その年に伸びた若い世代の枝に更新することによって、人の手によって世代交代を行います。

薔薇は自身が出来ない癖に世代交代を欲する志向は、人間と比べ物にならないくらい旺盛で残酷なものです。古代の人たちは薔薇の生癖に気付き、薔薇の美しい花と香りが欲しいために、せっせと薔薇自身の枝の世代交代に加担しながら、薔薇の旺盛な生命力を身近に感じて来たのでしょう。

薔薇の生命力は四季の1年の間ばかりでなく、枝を更新しながら長期間にわたって新しい生命力を宿し、更に繁殖のしやすさから数世代にわたって人々に生命力を分け与えてきたものと想います。


ピーター・ビールズが著書で、地上に何も残さない冬の宿根草の姿に永遠を感じると言っていました。私も冬の薔薇を見た時、枝だけの裸の状態で表面は活動はしておらず眠った状態に見えますが、来るべき春に向かってじっと雌伏している力強さを感じます。

春の一斉咲きの梅、桃、桜の名所には多くの人たちが訪れますが、薔薇愛好者たちは、梅、桃、桜に続いてさらに薔薇の生命力を独り占めにします。そして生命力では劣りますが耐久力抜群のアジサイへと季節は進みます。こうして私たち薔薇愛好者は縄文人と同じように、自然界からたくさんの生命力を得ることができます。

通常、夏から秋、秋から冬に、薔薇は手入れを怠ると、黒点病などで葉は落葉に冬を迎える前に枝は丸坊主になります。しかしまめに手入れを行うと12月まで何とか葉を付けさせて光合成を行います。光合成は薔薇にとって肥料以上に樹そのものを強靭にします。毎年光合成が順調に行わた薔薇は寿命が延びるのです。


中央はイングリッシュローズのエイブラハム・ダービーで30歳を越え、人間だったら100歳を軽く超えていると想いますが、老木にもかかわらず元気に葉を付けています。このエイブラハム・ダービーに接していると、我が家の庭も大分年季が入って来たなと感じます。年季が入ると言う意味は、物事がただ古くなったという事でなく、技術が蓄積されることを意味します。

従ってガーデンで大事な要素に「年季」という概念が有ります。日本庭園はその最たるもので、かっての個人の日本家屋は庭師がその年季を表現するために腕を競って来ました。
私はガーデニングの庭でも、始めた時から年季の要素が大事だと考えていました。英国人も年季という概念を非常に大事にしています。
なぜなら自然の風景は人の手を越えた年季そのもの光景です。それらは京都の寺院の庭だけでなく、山道の傍らに位置する古い農家の畑や庭にそれを見ることができます。或いは自身の持つ使い慣れた剪定ハサミや小さなシャベル、或いは苔むしたテラコッタにも年季を感じます。使い捨ての安物の道具は、古くなるとその機能を果たさず、味も無くなりますが、良い道具はメンテしながら使い込むと味が出て来ます。
我が家の庭にも30数年前に購入した様々なコンテナや愛用のブルドッグの移植ごて、安来ハガネの剪定ハサミなどに交じって、30数年目に購入した英国のバラアーチやランブラーローズやイングリッシュローズが何本か現役で頑張っています。しかし安物のオベリスクは塗装してメンテしますが味には程遠いものです。

アルピニズムと言われたスポーツ登山形態の登山を60年以上続けていますが、雪山には自分の命がかかっているために、残念ながら古い道具やウエアは懐かしいだけで機能的には不十分で実際には役立ちません。こちらは今まで新商品の方が優秀で何回も買いなおしてきました。


ガーデニングでは、新しくまだ実績のない道具や用具に比べると、実績のある年季の入った道具、用具の方が遥かに優れていることを皆、経験的に知っています。

「年季」を感じるガーデンが、好ましいと想うのは、「年季」という概念が日々の営みの結果であることなのでしょう。

三内丸山遺跡の後期の縄文人たちは移動の民でなく定住の民だったようです。まだ稲作のように積極的に耕地を耕し食料を得てきた弥生人と違って、縄文人たちは栗を栽培していましたが、自分たちの生命力を維持するためにに、自然の生命力と接することに敏感だったようです。

この縄文人の心性が、DNAとしてかすかに私の心に残っているようにも感じますし、現代の高度産業社会の中に浸かって生きる現代の人々にも、自然の生命力に敏感になっています。若い家族のアウトドア志向はそのような背景もあるのでしょう。

自然の生命力だけだったら蛙や蛇にもありますが、薔薇の生命力は自然界で最も美しいとされる花を生み出す生命力であり、そこには芸術性も感じるのです。

このような冬の見苦しい庭の風景も、初夏には芸術的な光景に変わるのです。

30数年前薔薇を栽培し始めてから、解ったことがあります。
薔薇は5000年の歴史のある植物ですが、紀元前から地中海に広がった古代ギリシャ文明で、紀元後からはローマ帝国やイスラム社会で盛んに栽培されてきました。

薔薇の栽培目的は2つあり、1つは人々を魅了するその美しい花と香り、もう一つは香水の原料でした。香水作りはヨーロッパの修道院でも盛んに行われ、蒸留の過程で産出されるバラ水は薬として重要な存在になりました。

このように薔薇は、人間にとっての穀類、野菜や果実など実用性の植物と異なり、何よりも花の美しさとその香りの芸術性から、世界の2大文明のヨーロッパ文明とイスラム文明で産業まで発展した稀有な植物です。

私は薔薇栽培を始めた頃、薔薇の歴史を調べて行く中で、オールドローズを手入れしながら、目の前にあるオールドローズに、多くの名も無い人々がかかわりあってきた歴史に想いを馳せることが度々ありました。その時想うことは、人間は他の動物と異なって植物に食用という実用性を求めたばかりでなく、薔薇に代表される植物の花の美しさと香りを求めて来ました。そして目の前にある薔薇たちが自然に生まれたものでなく、多くの人たちがかかって交配を繰り返し新しい薔薇を生んで来ました。人間の美を追求するあくなき執念に感動したことがありました。

オールドローズを栽培することは、我が家の庭に歴史的な名画があるのと同じような気持ちになります。こう考えるのは少し大げさすぎると想いますが。

薔薇の樹形の分類

薔薇は樹形によって剪定の方法が異なります。
前回は2回に亙ってクライマーとランブラーローズの冬剪定の方法について触れました。

今回は薔薇の主力である通常の背丈の薔薇の冬剪定に触れますが、その前に通常の背丈の薔薇は、木立系とシュラブ系の2つに分類され、多くの人たちはシュラブローズの名に親しんでいなませんが、私の薔薇は全てシュラブローズのため、主にシュラブローズの剪定方法に触れたいと思います。

薔薇を大まかに分類すると下記3種に分かれます。
1)クライマーとランブラー  
薔薇はツル性植物でありませんが、昔から通称ツルバラと呼ばれている長く伸びる薔薇。

2)木立系の薔薇      
枝が少なくてやや太くサポートが無くても自立する薔薇、通常ハイブリッド・ティに代表される薔薇、通称ブッシュ樹形と呼ばれる薔薇。
     
3)シュラブローズ      
オールドローズに代表される薔薇の原種から改良された薔薇で、枝が細く密集し枝が良く伸び、場合によってはクライマーにもなる薔薇。

30年目までは主に世界の薔薇は1)のクライマーと2)の木立系のハイブリット・テイとフロリバンダで、一般にはランブラーやシュラブローズは流通されていませんでした。従ってクライマー以外は木立系の薔薇しかありませんでした。

外来植物である薔薇は、我が国には比較的現代になって導入されたもので、薔薇の解説や栽培方法はあらゆる外来文化と同じく外国語を翻訳して使用しました。しかし翻訳が適正と言えずいくつかの混乱が見られます。

例えば四季咲き:
英語では四季咲きという言葉はなく、連続開花、リピート開花、1回咲きの3つしかありません。

ツルバラ: 
薔薇はツルを他に巻き付けて登るツル性植物でなく、英語ではクライマー或いはクライミングローズ、ランブラーローズと分けて分類しています。

ブッシュ: 
英語ではブッシュは藪のことで、すっきりした木立性を意味していません。

シュラブ: 
英和辞典では灌木と訳していますが、無理やり薔薇用語に翻訳されていないことは極めて薔薇フアンにとって幸いです。

余談になりますが、西欧近代登山活動は、明治後期に薔薇よりずっと早く我が国に導入され、大正時代に素人の登山家たちが、西欧のアルピニズムを知りたく英国、フランス、ドイツの山岳本を翻訳しましたが、山岳用語は無理やり日本語に翻訳せず原語をそのまま使用しました。

それらは現在でも日本語になって使われており、迷いのない共通した概念を伝えています。
たとえば登山用語で普通に使われているブッシュは、かき分ける際、薄いズボンが破けるほどの藪を意味しており、薔薇用語のすっきりとした木立系は意味していません。
もちろんクライマーは自分の手でよじ登ることで、クライミングローズはただ登って行く薔薇の意味です。
ランブラーローズは長く伸びることはクライマーと同じですが、その名のように宛てもなく藪のような枝が密集する姿はクライマーと同一でなく、無理に翻訳されなくて正解でした。

優雅な樹形、シュラブローズの剪定

始めて開発されたイングリッシュローズ、グレハム・トーマス

シュラブローズは、原種から改良されたオールドローズや、オールドローズとモダンローズの連続開花性や多彩なカラーを加えて、英国のデビッド・オースチンによって開発されたイングリッシュローズが契機となり、今や世界中で毎年新発売される薔薇の大半がシュラブローズです。

シュラブローズの特徴は、木立系のハイブリットティに比較すると、圧倒的に枝が細く量が多いことです。
薔薇は頂芽優勢の性質により枝の先端にしか花を付けませんが、同じ直径1,2mの1株の薔薇をハイブリット・ティと比較すると、シュラブローズは枝の本数が多いため、花の量は10倍位になり、1株での花の量が圧倒します。

また枝が伸びる品種が多く、枝がしなやかな薔薇ではアーチやオベリスクはクライマーより仕立てやすい利点があります。

欠点としては直径1,2m以上の大株に仕立てればサポートなしで自立しますが、広い庭でないと本数が植えられません。
この点花量は少ないですが自立してスペースを取らない木立系の薔薇の方が有利です。
ハイブリッド・ティの最大の欠点は、自然風な宿根草やハーブと草姿が全く調和しないことで、草花と同じ花壇では雰囲気が会わず使えません。ですから公園ではローズベッドと言って同じ品種の同じカラーのハイブリット・ティを使用して花壇を作ります。

地植えで株立ちで仕立てるシュラブローズも鉢でコンパクトに栽培すれば、スペースを取らず鉢の幅だけで栽培可能です。

オールドローズのブル・ドゥ・ネージュの剪定後とその結果 30年前の剪定画像がありました。当時、主庭はDIYで作ったウッドデッキで覆われていました。
ブル・ドゥ・ネージュはブルボンローズの中でも大型にならず比較的コンパクトな薔薇です。

シュラブローズの剪定の目的、なぜ剪定を行うのか?

薔薇は様々な形で眼の前に位置します。薔薇は同じ品種でも同じ樹形の品種は無く、剪定作業はマニユアル化は不可能で、薔薇の枝を前にしながら瞬時に判断して枝を切る作業が要求されます。
瞬時に判断して枝をカットして行くためには、剪定の目的と原理を頭に入れて瞬時に判断しながら剪定を行う必要があります。そのため下記の5つの原理を頭に入れると、判断が容易です。


剪定の5つの原理

1)頂芽優勢の性質を活かして花を咲かせます。
薔薇は枝の先端に栄養を集中させる性質があるため、絶えず枝をカットしその下から新しい横芽を出し、そこから新しい枝を伸ばし先端に花を咲かせます。
もしこの枝を切る作業を行わなかったら、花を咲かせた枝は伸びきって、新しい枝は出ないでしょう。花柄積みは、カットした枝のすぐ下から新しい枝を出させ新たな花を咲かせる作業です。



2)剪定は古い枝を新しい枝に更新する作業を主とします。薔薇の剪定は、薔薇自身で出来ない世代交代作業を人間が代わりに行う作業です。
古い枝より新しい枝の方が水分や栄養分の吸い上げ能力が強いため、花を咲かせるためには絶えず枝を更新していきます。


3)枝ごとに栄養が行かないように、余分な枝を切り主枝を活かします。頂芽優勢の性質のため、枝の数だけ水分や養分を吸い上げを避けるために、内向きな枝や細い枝など、余分な枝に栄養が行かないようにカットします。

4)株中の枝の密集を避け、株を健やかに成長させます。
枝を密集させておくと、薔薇栽培で大事な風通しが悪くなり黒点病などにかかりやすくなったり、密集した枝は日光も遮るため、密集は避けます。

5)放任させず樹形(高さ、幅)をコントロールし庭のスペースに適合させます。
庭やベランダでの植え場所によっては、大型になると困る場合があるため、樹形の高低や幅を剪定によってコントロールします。

シュラブローズの剪定方法

30年前のオールドローズのポートランド、ジャック・カルチェの剪定前と剪定後の画像です。多分大苗の2年目の薔薇だと思います。ポートランドローズはオールドローズでも横拡がりにならず、比較的コンパクトな仕立てが可能です。

当時はシュラブローズの剪定方法を紹介する本がなく、見よう見まねで行いました。冒頭に書いた剪定の目的と原理を未だ知らない頃で、おっかなびっくり行っていましたが、初夏になると右の程度は花が咲くため、細かな剪定方法にはあまり拘りませんでした。今画像を見ると、後20㎝は切って枝の先端の二股や三俣の下で切った方が良く、また途中の細い枝も整理して方が良かったかも知れません。それでもこの程度の剪定でも、右のレベルの花は咲くため、細部に目くじらを立てる必要はありません。

下記は昔、園芸教室で使用した私が作成したオリジナルテキストです。強、中、弱の剪定の程度の分類は昔、米国のローズソサエティのハイブリッドティやフロリバンダの剪定を解説した著書に掲載されていたもので、当時はシュラブローズの解説はありません。ピ-ター・ビールズはハイブリッド・ティには明確なルールが定められていますが、シュラブローズには基準がないと言っていました。

シュラブローズの剪定には、業者の苗生産時の剪定と、広い薔薇園での剪定、個人の狭い庭での剪定、地植えか鉢植えで若干異なり、下記基準を基に個人の経験の積み重ねが重要なのかな想います。

薔薇を勉強して来て分かったことは、自然の植物ですから、方法論の程度では絶対こうしないといけないという事実は無いことです。剪定を行うことは必要ですが、剪定の程度について極端に言えば絶対ということは無いことです。薔薇の原理を頭に入れて接すれば、型にはまってあまり細かく神経を払う必要はありません。

剪定の程度

樹高に対しての剪定の程度の分類です。
1)強剪定  
樹高の3分の2をカットします。ハイブリット・ティの冬剪定の程度です。

 
2)中剪定  
樹高の半分をカットします。シュラブローズの冬剪定の程度です。

3)弱剪定  
樹高の3分の1をカットします。シュラブローズの1年目の冬剪定の程度です。

シュラブローズの剪定の手順 

1)剪定後の樹高を決めるために、真ん中の枝をカットします。
2)不要な細枝、枯れ枝をカットします。
3)真ん中の枝を中心に外側に向かって円錐形を描くようにカットをイメージします。
4)枯れてはいませんが、見るからに役目を終えた古い枝を根元からカットします。
5)内側に向かって伸びた枝はカットし密集を避けます。
6)円錐形を描く際、必要な枝は外芽の直ぐ上をカットします。芽が出ていなかったら切りたい位置でカットすると、やがて直ぐ下から芽が出て来ます。
7)二俣枝、三俣枝は1本だけ残し栄養の分散を避けます。

薔薇の剪定は瞬時の判断作業の連続です。

薔薇は同じ品種でも植え場所、仕立て方によって樹形や大きさが異なるためマニュアル化できません。薔薇の剪定が難しく感じる点はここにあります。
従って剪定は冒頭に触れた5つの原理に従って、その都度判断しながら行うしかありません。

霧の中での登山と同じく、最初は霧の中で位置が分からなくても、ハサミを動かしていくとやがて晴れてきて、方角や方法が見えるようになります。

薔薇の剪定には大きな失敗は無い

たとえ間違って枝を切ったとしても、薔薇は必ず自身で伸びようとする本能が働き、失敗をカバーしてくれます。
3月の後半に薔薇の芽吹きが始まります。芽吹きの姿が剪定の通信簿になります。

剪定後の元肥

剪定後に施肥を行います。冬の施肥は寒肥(元肥)と呼ばれ、薔薇の木そのものに対する基本的な栄養補給です。更に土壌の団粒を維持するために、腐葉土や良質の堆肥を施します。
また元肥の主力となる窒素、リン酸、カリの肥料は必ず施肥します。有機肥料、化学肥料どちらもOKですが、特に花の肥料の燐酸分は有機肥料には骨粉しかなないので、バランスのとれた化学肥料の薔薇の肥料が有効です。化学肥料は菜園と異なって薔薇は安価な肥料では肥やけをおこすので、専用の薔薇の肥料が有効です。

シュラブローズには直立形の薔薇もあります。

大昔の画像でイングリッシュローズのヘリティ-ジです。左の画像は剪定前ですが、イングリッシュローズは伸びる品種が多いため、樹高の半分に切らないと右図のように行きません。

シュラブローズのオベリスク仕立て

オベリスク仕立ては、アーチやフェンス仕立てと並ぶバラ仕立ての最高の形態です。
オベリスクとは古代エジプトにおいて、神殿の門前の両脇に建てられた方形の石の塔で、優れた建築モニュメントのため、古代ローマに継承されてきました。
バラのオベリスク仕立てはこの建築モニュメントを庭園に取り入れた仕立て手法で、たとえば幅5mのバラでも40㎝足らずの場所に仕立てられるため、場所を取らず庭の空間を演出できるため人気があります。

私はオベリスク仕立てがとても下手です。ですから3本の枝で籠を編むような美しいオベリスクの画像はありません。一番の問題点は初夏枝が伸びますが、いち早く気が付いてオベリスクの外側に出さないと手遅れになり、篭のようには撒けなくなってしまいます。

オベリスクの誘引と剪定は、薔薇の頂芽優勢の性質を利用する技術。

1)前年に伸びた勢いのある枝を将来の主枝にするために大事に誘引します

2)栄養の流れを見極めます: 誘引・結束が出来ない細い脇枝は、栄養が無駄になるのでできるだけカットします。

オベリスク仕立てに適した薔薇

枝が細く斜めに誘引しやすいバラ。ランブラーローズのように枝が密集するバラでも、場所を取らず仕立てることができますが、シーズン中横枝が伸びるためランブラーはオベリスク仕立てにしない方が良いでしょう。ただし小型のランブラーだったら可です。枝が太くてゴツいピエール・ドゥ・ロンサールのような薔薇は不適です。

手順

まず、誘引結束が不可能な細くて短い脇枝を、付根1㎝~5㎝くらいの場所でカットして行きます。細い枝でも少し長めの枝は、隙間を埋めるために切らずとっておきます。
横枝をカットした棒のような長い枝3~4本程度を、下から篭を編むように結束して行きます。枝は無理やり斜めに巻きながら誘引し間隔を空けないで結束します。
オベリスクの頂点を越えて伸びる枝はカットします。

オベリスクの径の大きさ

オベリスクは径が太くないと薔薇は巻けません。

オベリスク仕立て

オベリスクは横に広がるシュラブローズのサポート用具としては極めて有効です。枝を巻かずオベリスクに伸びた枝を倒れないように結束しながら限られたスペースで多くの品種を楽しむためにはオベリスクは極めて有効です。

オベリスクに仕立てたオールドローズ、ブルボンのスベニール・ドゥ・ラ・マルメゾンです。ダマスクの香りです。

オベリスク風小型サポート

またオベリスクのように枝を巻き付けるのではなく、単なる支えの小型オベリスク風サポート支柱は、スペースの少ない住宅街の庭ではかなり有効です。

剪定と施肥を終えた前庭のシュラブローズ


ユーカリもついでに剪定しました。このユーカリは寄せ植えの中心木の小さな苗木がここまで大きくなってしまいました。
ミモザ、ユーカリ、オリーブ、ニセアカシヤなどのオーストラリアや地中海原産の雨量の少ない原産地の樹々は、根張りが想像を絶するので地植えは要注意です。

私はミモザやニセアカシヤで驚いたので鉢植え仕立てをおすすめします。

昨年の前庭の薔薇、今年も冬剪定と寒肥を施したので期待できるでしょう。

オベリスク仕立てのブルボンローズのスーベニール・ドゥ・ラ・マルメゾン

イングリッシュローズのウィズリー2008とエイブラハム・ダービー、いずれも廃蕃です。

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オースチンが初めて開発したイングリッシュローズのコンスタンス・スプレイ  もちろん廃盤で古典になった薔薇です。

マイディア

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イングリッシュローズのクラウン・プリンセス・マルガリータ

ハイブリッド・ムスクのプロスペリティです。

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家庭菜園から移植したロココです。

イングリッシュローズのルディテ メアリーローズの変種で20年以上前に廃盤になりました。

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ガリカのカーディナル・リシュリユーです。

クレマチスのダイアナです。

オールドブラッシュ・チャイナです。隣の黄色の蕾はゴールデン・ボーダーです。

主庭のシュラブローズの剪定と寒肥

寒肥の材料です。腐葉土主体の良質な堆肥、有効微生物入り有機肥料、ミリオン、IB肥料、コガネムシの殺虫剤ダイアジノン

養生中の出番を待つ薔薇たち

主庭の地面は12月から3月中旬まで陽が当たりません。

主庭はこのセントセシリアの花柄積みや、葉の管理、そしてヒララヤン・ムスク、アルベルティ-ンの年数回の剪定で手がかかるため、他の薔薇は手がかからない品種か姿を保っています。

庭の真ん中は手入れがしにくいため、手入れの要らない小花のミニランブラーたちを地植えしています。壁面は手前の薔薇が茂ってくると近寄るのが大変になります。

様々な地植えした新苗です。ここは手入れがしやすいスペースです。ただ薔薇の栄養を吸い込んだ雑草との格闘になります。

剪定と施肥を終えた鉢植えの薔薇たちです。昨年かなり植え替えたので今年はそのままです。薔薇は最低でも8号が必要ですが、株を大きくして見栄えを良くするためには10号が必要になりますが、10号ばかりですと今度は管理が大変になります。

昨年の主庭のシュラブローズ、

昨年度は少し華やかさに欠けていました。今年は期待したいです。

この一瞬の光景を見るために、冬の剪定・誘引・施肥が必要なのです。

薔薇庭の光景ほど冬と初夏の落差は凄いです。反面、山岳は雪を被るため積雪期の光景は神々しくなり無雪期と比較になりません。

今年も初夏の光景を夢見ています。やはり冬と夏の光景の境は3月下旬の芽吹きでしょう。自然の風景は花より緑の風景の方が重いです。