薔薇のエッセイ12、前庭のクライマー、ランブラーの剪定と誘引

昨年末から引き続き前庭のクライマーとランブラーローズの剪定と誘引を行いました。
クライマーやランブラーは脚立に乗っての作業のため、オベリスク仕立てのシュラブとは別に、単なる株立ちで仕立てた薔薇の剪定作業に比べると10倍位手間がかかります。しかしクライマーやランブラーローズの花の量は、通常の株立ち薔薇に比べると圧倒的で、一度咲かせてみるとその迫力に負けて中々止められません。

私はクライミングローズをクライマーと呼んでいますが、クアイマー自身は自立できず、人間が用具を使用してサポートしないと育てられません。私はこのサポートの方法を仕立てと呼びますが、パーゴラ、アーチ、フェンス、オベリスク、ピラー(柱)仕立て、ワイヤー(ガーランド)仕立て、梁仕立てなどさまざまな仕立て方があります。
クライマーは系統によって長く伸びる品種や、2m位しか伸びないハイブリット・テイの突然変異種のクライマーがあるため、どの仕立てにするか異なります。

私が薔薇の世界に決定的に憧れたのは、英国でランブラーローズの頭上に花が降り注ぐ仕立てを見た時です。
私はそれまで薔薇に興味が無く、日本の薔薇園で回廊に仕立てた薔薇を見ても心が動かず、赤や黄色、ピンクの色毎の大型のローズベッドで仕立てた薔薇を上から眺めても薔薇に興味が無いため見事だなと想った程度でした。しかし英国の庭で見たランブラーローズの小花が頭の上から花が降りそそぐ光景に出会った時、桜と同じでではないかと感じました。レンガのフェンスを背に、頭上から降り注ぐように張り出したランブラーローズの小花の真下には、ソフトな花色の白やうすいピンク、濃いブルーの草花が風にそよいでいる姿にも感動を覚え、この様式の花壇がボーダー花壇と呼ばれていることを知りました。英国の田舎には草花や植物で覆われたカントリーヘッジと呼ばれる柵があり、それらがボーダー花壇の原型だったのでしょう。

10数年前だったらまだしも、近年、私も家内も草花にはすっかり手を抜いており、オープンガーデンを実行している花好きな友と草花を語る資格は全くありません。また何よりも住宅地の中にある我が家には花壇をつくる場所がありません。30年前にはボーダー花壇の真似事を試みましたが、狭い場所で薔薇に遮られて日照も無く満足に育たなかったので、大型コンテナに切り替えましたが、それも絶えず草花を入れ替なければならず、気持ちが登山に向いていたので、徐々に減って行きました。今では畑の方がゆったりと育っています。

草花と薔薇の2本立ては無理ですが、何とか庭には空間を彩るクライマーとランブラーは止めずに頑張っています。クライマーやランブラーは栽培に10倍以上手間がかかりますが、狭い空間でも工夫によっては仕立てられるので、何とか努力しているのです。

12月、前庭のクライマー、ランブラーの剪定前

クライマーは返り咲きと一季咲きの2種があり、多くは年1回しか咲きませんが、一季咲きと言われるアイスバーグやピエール・ドゥ・ロンサールのように何回か花を繰り返す場合もあります。年に数回花を求めるのならイングリッシュローズなどシュラブ系の樹高の高い薔薇が有効で、これらは薔薇アーチやオベリスク仕立てでは威力を発揮するでしょう。
ランブラーローズは多くは日本原産のノイバラから改良された品種が多く、アルベルティ-ンやバルビエを除いて花は小輪で房咲きで1季咲きです。

薔薇栽培に経験の少ない人は、1季咲きの薔薇は物足りなく想う人も多いですが、ランブラーローズは初夏に1回だけ全パワーを駆使して咲く姿は、桜と同じで圧倒的です。またランブラーは枝も細くしなやかで、小さな葉が風にそよぐ姿は美しく、庭に上質の緑を楽しむことができます。

昨年5月の前庭の風景

薔薇の原種の多くはユーラシア大陸西部の比較的乾燥地帯の原産です。原種はいわゆる藪的な低木で、鋭いトゲが密生した細い枝が密集し、横拡がりに伸びていきます。トゲは異敵から身を守り、一重の花は受粉しやすい構造で、香りとピンクや白の花色は昆虫を惹き付けて子孫が増える様に待ち構えています。

これら原種の中から突然変異で生まれた八重咲きの原種薔薇が香水作りのため効率が良いため、品種改良され八重咲きの薔薇が圧倒的に増えました。
薔薇の歴史については別な機会で触れますが、原種の薔薇の本来の樹木としての特性は、枝が細くしなやかでまっすぐ自立しにくい藪のような低木のいわゆるシュラブ樹形です。枝が太く巨大輪で自立する薔薇は20世紀になって作られた薔薇で、薔薇本来はシュラブ樹形です。
私は30年前、シュラブ樹形のオールドローズとイングリッシュローズに出会って薔薇を始めましたが、当時は少数のシュラブ樹形の薔薇も、近年ではシュラブ樹形の薔薇が主流で、毎年新発売される薔薇の大半がシュラブ樹形のシュラブローズです。

12月、アーチ、オベリスクが林立する剪定前の光景

シュラブ樹形の薔薇は、サポートせずに自然に自立させて栽培するならば、直径1,2m以上のシュラブローズ本来の樹形で自立しますが、限られた庭のスペースでは何本も植えられません。そのため横に枝が拡がらないように様々なサポート用具を使用して仕立てます。

オベリスクなど薔薇の仕立て用具を使用する理由は、本来横に1,2~1,5mに広がる枝を、オベリスクの径の幅に樹形をコントロールするためです。

薔薇アーチのドロシーとアルキミストの剪定前

しかしクライマーやランブラーは横に枝を伸ばす性質を、仕立て用具によってフルにその性能を引き出すのです。

固定物の間の空間をアルミの針金を渡し、そこにランブラーローズを這わせます。針金もランブラーローズの枝が伸びることに寄って、薔薇自身の枝が空間に固定します。

前回触れたように、空に向かって伸びた横枝を主枝から2㎝ぐらい残してカットします。画像のように主枝から残った横枝の切り口の直ぐ下から、新しい芽が吹き出し、それが枝となって先端に花を咲かせます。

薔薇アーチの剪定・誘引後

プロが見たら私の誘引・結束は美しくなくいい加減と想うはずです。
プロはよく冬の剪定誘引で、狭い間隔でびっしりとヒモで結束した美しい光景を見せます。
しかし私の誘引結束は、間隔はバラバラでびっちりと美しく芸術的な結束はしません。
負け惜しみではありませんが、クライマーやランブラーにとって冬の誘引結束の美しい姿が有効なのか、初夏から葉が繁茂する時期の快適さが重要なのか、私は後者を優先します。大体が不安定な脚立作業で、緻密な結束を行うよりも、新芽が噴き出せば美しい結束など直ぐ隠れてしまい、むしろ葉が密集して身動きとれない状態で風通しが悪くなります。また12月の年一回の剪定だったらまだしも、年3~4回も行うランブラーにとって、ある程度ラフな誘引結束のベターと想っています。

ワイヤー仕立ての薔薇の剪定と誘引

空間に渡しているのは、ランブラーのドロシー・パーキンスとクライマーのアルキミストです。

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クライマーのアルキミストです。

昨年5月の前庭のアーチ周辺の光景

私は昔からアーチ仕立てが下手です。右側はドロシーが太陽を遮るため薔薇は植えず、クレマチスのダイアナを這わしています。

12月、小型パーゴラと梁の剪定前

薔薇栽培の初期の頃、夜遅く会社から帰宅して家の前に来た時、街灯に夜風にそよぎながら怪しく照らされたドロシー・パーキンスが、梁の上で波打っている光景を見た時、突然眠り姫の物語を思い浮かべました。100の間、森の中の藪に城が包まれてしまった物語ですが、我が家と城とは比較すらも出来ませんが、城が藪に覆われてしまう物語は、こういうランブラーローズのような原種の薔薇に覆われた事だと思いつきました。

梁にはランブラーローズのヴィオレットとフェアリーの変種を絡めています。2本とも1個の果樹鉢植えていますが、地植えだったら物凄いでしょう。

パ-ゴラから2間分横に伸びています。下に花台があるため、それらをどかせなければ三脚脚立を設置できないため、冬の剪定以外は高枝切で剪定しています。

剪定後

手前の枝はドロシーです。このドロシー・パーキンスも既に20年以上経っています。

昨年五月の光景

パーゴラの下はハイブリッド・ムスクのプロスペリティです。

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下の薔薇はイングリッシュローズのウイズレー2008です。

12月パーゴラに仕立てた薔薇の剪定前

パーゴラは初めてDIYで作った思い出の作品で、既に30年を越えました。当時は資料も無く米国のDIY雑誌を参考に手掛けた私だけの秘密の記念物です。

剪定後

数年前基礎が腐って来たので、新たな柱を建て補強しました。

昨年5月の光景

フェアリーの変種は頂いたもので、更なる成長が楽しみです。昨年は柱の前にクリスチィ-ナを植え、順調に伸びています。

パーゴラから鉢巻状に梁を渡して、フェアリーの変種を誘引しました。

大昔この位置にデフレ・フルール・ジョーヌを仕立てていました。その時は下に小さな花壇があり、ヒマラヤン・ムスクと共に地植えしていましたが、当時SUV購入のためカーポートを広げるため花壇を壊してしまいました。

ドロシーのガーランド仕立て剪定・誘引後

何もない空間に針金を渡してガーランド仕立てを行っています。

左はパーゴラまで誘引しています。

右は大型オベリスクの頂上まで誘引しています。左右何mになるのでしょうか。

昨年6月の光景、ドロシーはアジサイの季節の初めに満開になります。

ドロシーは色がひつこいですが、その華やかさでシーズン最後を飾ってくれます。

ドロシー・パーキンス、ヒマラヤン・ムスク、アルベルティ-ンの3種ほど強健な薔薇は見たことがありません。それぞれ30年経っていますが、未だ衰えを知りません。この3種と出ったからこそ、ガーランド仕立てが可能になりました。

ブログのタイトルに使用したヒマラヤン・ムスクの30年前以上前の画像です。カーポートを広げるために植え替えて今は庭の奥に移設しています。このヒマラヤン・ムスクは1本のワイヤーを渡して誘引しています。このヒマラヤン・ムスクはピーター・ビールズの苗ですが、我が国に導入したヒマラヤン・ムスクの初期の1本です。